【第18話:垂涎の魔道具】
それから程なくしてワイバーンとの戦いは決着が着いた。
あの後オレは、翼を負傷して地上で戦っているワイバーンに魔法が届く位置まで移動すると、リシルの援護に徹して二人で危なげなく勝利する。
リシルは魔法の腕だけでなく
「最初にリシルが魔法を当てた時点で勝負あったようなものだったな」
空を飛び回るワイバーンを倒すのは中々骨が折れるが、初撃のリシルの魔法で最大の武器である翼を失ったワイバーンに苦戦する要素は無く、あの時点でほぼ勝負は決していた。
オレのその言葉に、
「へへへ~♪ もっと褒めてくれてもいいのよ?」
リシルはオレの方を振り返り、戦いが終わってちょっと緩んだ表情でそう返す。
気を張っている時は大人びて見えるリシルだが、暫く行動を共にすると普段は歳相応の表情を見せることにすぐに気付いた。
「まぁでも、オレの荊棘で尻尾の動きを止めなかったら危ない場面があったから差し引きゼロだな。いや……むしろ怒らないといけないぐらいか?」
オレのその言葉にそっと視線を逸らすリシル。
ワイバーンが弱ってきたところで尻尾の毒針を受けそうになっていたので、それを注意しておこうかと思っていると、後ろから声をかけられる。
「あ、あのっ~!!」
声のした方を振り向くと、少し遠くに先ほど助けた女性の冒険者が馬をひいて立っていた。
ワイバーンのような魔獣は魔物と違って亡骸が残る。
馬が怖がってこちらに近づけないようで、仕方なく少し遠くから声を掛けてきたようだ。
「あぁ、すまない!」
どうしたものかと遠くで困り顔の女性にそう返すと、今度はリシルの方を向いて原因を取り除くように声をかける。
「リシル、この間あげた例の魔法鞄にワイバーンの亡骸を収納しておいてくれ」
先日、トーマス村で起こった事件で『世界の揺らぎ』が使用していた魔法鞄は回収してあり、旅の途中でリシルに渡してある。
口では「別にいらないわよ」とか言っていたが、欲しがっていたのがまるわかりだったのでメギタスの街を出た時に無理やり押し付けるようにプレゼントしたのだ。
「わかったわ。ワイバーンの素材は結構高く売れるから、暫くお金には困らないわね♪」
リシルは今にも鼻歌でも口ずさみそうな様子で返事をすると、
すると、魔法鞄の口に小さな魔法陣が浮かび上がる。
そしてワイバーンの亡骸まで近寄って魔法陣を近づけると、3mを超える巨大な亡骸が忽然と姿を消した。
「終わったわよ~」
そう告げるリシルの透き通った声をかき消すように、今度は野太い声が響き渡る。
「なななな!? なんと!? あれほど巨大なワイバーンを収納できる魔法鞄とは!? ちょ、ちょっと見せてくれないか!? ちょ、ちょっとでいいんだ!!」
馬車に乗っていなければ今にも駆け寄ってきそうな商人……たしか、アキドと言う男だった。
魔法鞄は冒険者憧れの魔道具であるが、同じく商人、特に行商人にも
中でもワイバーンの亡骸を丸ごと収納できるようなものはかなりの高値で取引されているため、当然と言えば当然の反応かもしれない。
「ちょっとおじさん!! 落ち着いて!!」
リシルが若干頬を引き攣らせてひいていたが、途中で冒険者の女性が間に入ってくれた。
「あぁ、すまない……憧れの魔道具を目にしてつい興奮してしまった。申し訳ない……」
落ち着いたアキドが先ほどの非礼を詫びた所で、ようやく話をする事が出来たのだった。
~
「先ほどは本当にありがとうございました。私はこのイクリット王国で行商をしておりますアキドと申します。こっちは冒険者をやっております姪のマリーです」
どっしりとした体格に、少し薄くなった髪に手をあてながら、本当に助かりましたと礼を繰り返す行商人のアキドは、あらためて自己紹介をしてくれた。
「え、えっと……Dランク冒険者のマリーです! 先ほどは本当にありがとうございました! あと、叔父さんが失礼しました!」
そう言って深々と頭をさげる。
マリーは近くで見ると思っていたより若く、20歳にもなっていなさそうな少女だった。
背中まで伸びた赤い髪はリボンのようなもので緩く結んでおり、手に持った杖も少し装飾の施された可愛らしいものを使用している。
旅用のローブも薄い赤で染められた、いかにも女の子らしい装いだ。
しかし、マリーには既にもう何度も頭をさげられているので、オレは気にしないで良いからと伝え、自身の自己紹介もしておく。
「オレは冒険者のテッド。こっちも同じく冒険者のリシルだ。たまたま近くで魔法の音が聞こえたので駆け付けたまでだ。気にしないでいいからな」
「そうね。でも、ワイバーンの素材は貰うわよ? ところでワイバーンにはいきなり襲われたの? よく無事だったわね?」
少し話を聞いてみると、テイトリアの街に向かっている途中、不意にワイバーンに襲われたという話だった。
ただ、襲われる前に馬が暴れたことで異変に早めに気付けたらしく、マリーの火矢を放つ魔法で牽制して何とか奇襲を免れたらしい。
その後は、街に魔物を引き連れていくと重い罰則が設けられているため、慌てて道を引き返して逃げていたところ、運良くオレ達に助けられたようだ。
「いやぁ~、しかしこんな所でSランク冒険者の方に助けて頂けるなんて本当に私たちは運が良かったようですなぁ」
「Sランクって叔父さん何言ってるの? リシルさんはBランク……って……えぇぇ!!??」
そしてオレに向けて目を見開くマリーの視線を追うと……、
「テッド……さっき取り換えたタグそのままになってるわよ……大人げないことするから……」
プラチナに輝く冒険者タグが胸にかかっている事に気付いたのだった。
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