魔王を討伐したけど全然めでたくない!

くにすらのに

魔王討伐したけど全然めでたくない!

 「やった……やってしまった」

 俺はついに魔王を倒してしまった。

 一振りで大地を切り裂く魔剣に、森を一瞬で灰にする炎魔法。極めつけに隕石を落としてきやがったが俺は勝った。

 ボスである魔王に辿り着く前に四天王やらそれぞれの町を支配する幹部クラスのやつらもしっかり倒している。

 魔王が滅んだ影響なのか、今まで人間を襲っていた魔物達も正気を取り戻して平和の訪れに歓喜しているようだ。

 つまり、俺は無職になってしまった。

 世界を魔王から救うことを生業にする勇者は、魔王がいなくなれば無職です。

 初めは喜々として勇者の使命を果たしていたけど、四天王の3人目を倒したあたりでこの事実に気付いてしまった。

 俺が勇者として働いている間は国王様がいろいろと援助をしてくれていた。

 宿屋や道具屋の割引だったり、知らない人に声を掛けても新設に対応してくれたり、この辺は国王様の計らいだ。

 だけど勇者の使命が終わったら?

 引き続き割引を受けられるとしても無料になっているわけではない。

 ある程度の手持ちは必要だが、金づるにしていた魔物もいなくなっているので別の方法で金を稼ぐしかない。

 例えば食堂で働かせてもらうとしよう。

 俺の包丁の一振りは山をも切り裂く。

 今は魔王討伐特需で許してもらえるかもしれないが、1週間もすればクビになるだろう。

 得意の氷魔法を活かしてスケート場でも経営するのはどうか。

 俺の氷は魔王の炎に打ち勝ったんだぞ? 生半可な氷じゃない。

 あまりに強くなりすぎて手加減しても町を冷凍保存できるレベルになっている。

 目的を果たしたはずなのに国王様への報告に気が乗らない。

 なんとか誤魔化して勇者を続けられないかな。無理だよな。だって空、めっちゃ晴れてるもん。

 いかにも魔王が生み出してたドス黒いオーラ消えてるもん。

 今となっては行きよりも帰りの方が足取りも重い。

 

 「勇者様、お待ちしておりました。ささ、どうぞ中へ。国民一同、勇者様へ感謝を伝えたくてウズウズしております」

 俺を見送ってくれた門番さんは魔物との戦いで命を落とすことなく、魔王がいなくなった今も入口を守っている。

 いいなー。安定した職に就けて。なんて考えを一切表情には出さず、爽やかな笑顔で門をくぐると……


 「ありがとう勇者様!

 「魔王討伐おめでとう!」

 「勇者様カッコイイ!」


 人々から様々な感謝やお褒めの言葉を頂いた。

 グローバルな視点で考えればおめでたいけど、俺個人としては全然おめでたくないからね!?

 ああ、国王様が死ぬまで生活を保障してくれないかな。慎ましく生きられればいいからさ。

 そんな甘えた計画を悟られぬよう、凛々しい表情で中央通りを進み城へと入る。


 「おお、勇者よ。よくぞ魔王を倒してくれた。ありがとう」

 「これもひとえに国王様の支援があってこそです」

 俺の今後の生活にも支援をお願いします! という願いを込めた。届いてくれ!

 「ほっほっほ、それは良かった。して勇者よ、これからのことなのじゃが」

 「はい」

 「魔王なき今、勇者は無職同然。じゃが、それでは平和の象徴たる勇者の存在が薄れてしまう。そこで、勇者税を導入することにした」

 「勇者税?」

 「ほれ、今まで魔王にギリギリ死なない程度の課税を強いられていたじゃろ? その金額を1/10程度にして勇者の生活費として国民から集めるのじゃ。なあに、世界を救った勇者のためなら喜んで払ってくれるじゃろう」

 なにその制度、完全にやってることが魔王じゃん! 金額の問題じゃないよ!

 「お言葉ですが国王様、さすがに国民のみなさんからの税金で無職を続けるのはちょっと……」

 「そう? なら勇者税はわしが貰う」

 「は?」

 「勇者の生活費という名目で税金を徴収して、わしの資金にする」

 「いやいやいや! 意味がわからないですよ!」 

 「さっき勇者も言ったじゃろ。わしの支援のあったから魔王を倒せたと。つまりわしも勇者みたいなものじゃ」

 「なに言ってるんですか! 大臣さんや騎士長さんからもなんとか言ってやってくださいよ!」

 国王様の側近に助けを求めたが、彼らはこのやり取りに関心がないかのように呆然と立ち尽くしている。

 「……くっくっく。死んではおらぬよ。ただ、わしの命令がなければ動けない忠実な下部へと堕ちただけ」

 「は? なに言っ……」

 あと一瞬反応が遅れていれば身体が城ごと真っ二つになっていた。

 斬り込みが入った城は轟音を上げながら少しずつ崩れ落ちている。

 「さすがは勇者。お遊びとは言えわしの攻撃をかわすとは」

 「お前……まさか」

 この圧倒的なプレッシャーには覚えがある。

 「そう、わしこそが真の魔王。おめでとう。勇者の仕事はまだ終わってはおらぬ」

 「はは、ありがとよ。俺に職務を与えてくれて」

 

 ほら、魔王を討伐したけど全然めでたくなんてないだろ?

 こうやって第2、第3の魔王が現れるんだよ。

 あーあ、いざ仕事が舞い込むと無職になりたいなんて思うのは贅沢なのかね。

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