8. ダンジョンって怖いところ

 ガサガサ…ゴソゴソ…ガサッガサガサガサ……


 目の前には見たことがある形をした虫がたくさんいる…黒光りする体をしているあいつだ。でもサイズがおかしい…20、いや30センチくらいありそうなんだけど…もしかしなくてもこの中を進むのかな…


「こいつらの魔石は使えんことはないが小さすぎて回収が困難だから基本無視で、面倒だから走り抜けるぞ~」


 前を走っていくリックの後ろを各自ついていきながら襲ってくるやつだけを処理して進むみたいだ。なんて恐ろしい光景なんだろう…あたり一面黒いあいつがいる…しかもでかい。極めつけはそんなやつらをみんなが次々に倒しながら進んでいるのをただ後ろからついて走っていることだ。たまにすぐ近くに胴体が真っ二つになったヤツが転がってくる。


「……っ」


 悲鳴を上げないように耐えるのが精一杯。というかこの状態で次の階層のところまで走り抜けるとか無理でしょう…


「いっ…今どのあたりですか??」


 もー早く出口について!!


「そうね…まだそんなに進んでないわよ?」


 アーシャさん…嘘でもいいから半分は進んだとかいってほしいです…もうね涙目です。たまに切り捨てられるヤツの胴体や頭が転がってきて避けるのに必死です!さらに飛び交う羽音とかもう最悪…いつこっちに来るかと気が気でない。私の後ろから銀太がついてきていてそこで食い止めてくれてはいるけど…後ろを見るともっと酷いよ?なんか蠢いた黒い塊が見える。


「み…見るんじゃなかった…」


 あわてて視線を前に戻すとヤツが目の前にドアップだ…多分生きてないやつだろうけど…でもこれは…


「い…いやーーーーーっ!!」


 無理無理無理むり~~~っ


 さっとしゃがんで避けたままもうダッシュです!あんなデカイの目の前とか耐えられないっ


「おーいナナミーーー?」

「わふぅ?『あるじどこへー?』」

「って…なんだありゃ……」


 なんか後ろから声がしたけどもう確認なんてしていられないっ早くここから出ないと…それだけしか今は考えられないよーっ

 いやーーーーーーっなんか周りからいろんな音がするぅ~~ガサガサとかゴソゴソとかブーンとかもう怖いし。グチャッとかビシャッとかも聞こえてくるけど一体なんなのーーーーっ

 あーもう涙で視界がぼやけて見えるよ…でもこれってある意味ラッキー?ヤツがはっきり見えないもんね!だからといって立ち止まることは出来ない。見えにくくなっただけでヤツらは周りにいるのだ。でもそろそろ限界…流石に走り続けるとか無理だわ……ん?


 気のせいかちょっとだけ広いところに出た。そしてヤツらがいない…これ重要ね!腕輪の地図で現在位置を確認してみる。


「えーと…私の現在位置は?」

《「ナナミ」ノゲンザイイチヲヒョウジシマス》


 地図を見ると一箇所に光っている点がある。つまりこれが私のいる位置か…入ってきた場所…目的の場所…現在地…うん。ちょっと目的地からそれてしまったみたい。…あれ?そういえば……みんなは?


「ん…パーティ名『銀狼』の現在位置は?」

《トクテイノジンブツ、マタメイショウノゲンザイイチハトクテイデキマセン。カワリニゲンザイコノマップニイルシュゾク「マモノ」イガイノゲンザイイチヲヒョウジシマス》


 …残念。だけどヤツら以外を表示してくれるみたいだからありがたい。


 確認して見ると光点がいくつかまとまっているのが3箇所あるみたい。つまりこのどれかが『銀狼』になるわけだけど…表示されているマップの中央一番下辺りが入ってきたところで…目的地は一番左上。地図の状態を見た感じ右のほうにある光点は完全に関係のない人達のよう。残り2つが割りと同じ辺りにあるんだけど…まあ今はどっちでもいいか。


「……ふぅっ」


 とりあえずヤツらはきそうもないし…下手に動かないほうがいいよね…もうね、なんというか後で誤らなければいけないのが憂鬱だ~…


 と、今のうちに寝袋買っておこう。スマホの通販サイトを開いて目的の寝袋を探す。…うん、目的のものはすぐ見つかったんだけどね、一番安いのでも銀貨3枚もするよ…ギリギリ買えるけど後が困るかな…いや…これがないとそもそも困るんだよね。ダンジョンの中で地べたに転がって寝ることになっちゃう……うん仕方ない。ポチっと押して寝袋を購入。余分な箱やら袋やらを取り外しひとまず全部鞄にしまう。もちろんちゃんとスマホで持ち物の確認もしておいたよ!



 さて、待つと決まったら暇なんだけど…気のせいか銀太がいない。折角この時間を使ってもふろうと思ったのに…まあいないなら仕方ないや。というか銀太も迷子じゃないといいんだけどね。


『じゃあライムと遊んで~?』

「…ん?」


 ああ、ライムはいつの間にか頭の上に乗っていたみたい。軽いから全然気がつかなかったし…頭の上から下ろしモニュモニュとライムをもみしだく。プルンプルンだね。


『えへへ~なでなでは嬉しいです~』


 いや、撫でてないよ?揉んだんだよ?


『おねーちゃんさっきのばびゅーんってぶわーって楽しかった~』


 えーと…擬音っていうの?それで言われると何のことだかサッパリわからないんだけど…まあ楽しかったならよかったね?この子はどうやらちょっと乱暴なことが好みなのかもしれない。


『きゃっきゃっきゃっ』


 うん…間違いないね。ボールのように上に投げるのを繰り返してみたらすごい喜んでるよ!


『あ、そうだこれ~拾ったの~』

「え、何々?」


 ライムの体の一部が触手みたいに伸びたのはおどろいたんだけど、その先からなんか石見たいのが出てきてさらに驚かされた。小石みたいなのがバラバラバラバラ……まだあるの?


「これは何?」

『わかんない~』


 そもそもいつ拾ったものなんだろう…そこから謎なんだけどね。あーそうそうあれだあのダンジョン入る前に買ったやつ。あれで調べられるんじゃないかな!なんだっけ…えーと……そうっ『鑑定』だ。


「あ…」



 ブライトの魔石:ブライトの体内にある魔石。小さいので使い道は限られてくる。


 腕輪からでる半透明な板に文字が出てる。ブライトの魔石?あーヤツの魔石なのねこれ…ふーん…ん?なんだ腕輪で鑑定出来るんじゃない。便利便利。


 まあ鞄にしまっておけばいいか。


 あーそれにしても早く来てくれないかな~まあ私が悪いんだけどね。もう一度現在位置を確認してみてもいいんだけど、思ったよりは離れていなかったからきっともう少し待てば来てくれるよね…?


「お、先着がいるな。」


 誰…?知らない人だ。あーマップに表示されていた別の人達か…


「ども…」

「1人なの?」

「あー…えーとはぐれちゃって?」

「あーそれでここに1人でいるってことか納得納得。」


 うざ…っいやはぐれた私が悪いんだけどさ!まったくの他人に言われると腹立つんだよね。理由はわかったんだからもう話しかけないでよねっなんか近づいてくるし、離れて座ってよ!


「っいしょ。」


 近いってば!この人に続いて他の人達も近くに座るしこの人達なんなのうざいパーティだ。略してうざパーと呼ぼう。まあ基本無視だけど。…うん、ちょっと落ち着こう。缶に入った飴を取り出し口にほおりこむ。やっぱり甘いものは気持ちが落ち着く~


『おねーちゃんそれなに?』

「食べる?」


 ライムが飴に興味を示している。あげるのはいいんだけど…口ってあるの?まあよくわかんないからとりあえず向いているほうが正面なのかな…?飴を近づけるとライムの体が変形して飴を奪うように持って行った。おーなるほど…体の中に取り込むのか…薄っすらと透ける体内に飴があるのが見えてるね。


『おいし~~これすきーーっ』


 やっぱ小さい子は甘いの好きだよね~いや…小さい子なのか?嬉しそうだからどっちでもいいか。プルプルと体を揺するライムを微笑ましく眺めているとうざパーのうざ太郎(仮名)が声を掛けてきた。


「へ~あんたテイマーなのか。で、それはスライムのエサか?」


 もう…ほっといて欲しいのに…


「えーと…これは飴です。ほとんど砂糖で出来てていろんな味があります。」

「砂糖だって??」


 おっと…うざ三郎(仮名)だと思ってた人がうざ姫(仮名)だったよ!!…すっごい…すっごい目線が飴にいってるぅ~左右に手を動かすと視線がついてくるし!


「…欲しいの?」

「売ってくれるの?」


 ん…?買ってくれるってこと?1缶で銅貨1枚だから1個くらいあげてもいいんだけど…私が悩んでいるとうざ姫(仮名)がまた口を開く。


「ん~1個銅貨1枚…くらいで買えるかな??」

「おいおい砂糖だろ?小さいけど流石にそれはないだろう…」


 へ~砂糖って思ったより高いのかな?


「じゃ、じゃあ1個銅貨3枚でお願いします!」


 なんですって?1缶30個近く入って銅貨1枚で買ったのにこの人はそれを一粒銅貨3枚とか…やばっ


「えーと…それでいいならもちろん売りますよ?」


 ええ、丁度お金もないので助かります!私がそういうとすぐに銅貨3枚渡してきたので手のひらに飴を出してあげたよ。色はオレンジ色だった。


「ん~~っこれはオレオンの味だ~」


 行動はやっもう食べてるし。まあ喜んでるみたいだし気にしないでおこう。


「えーと…お2人も食べますか?」

「いや、甘いのは好きじゃないから遠慮しておくわ。」

「…否。」


 うざ太郎(仮)はそういいつつも視線が離れないんだけど…あれか、甘いのが好きと言えない男子。そしてうざ次郎(仮)は口数がすくなすぎ…一瞬なんていったかわからんかったしね!


「お、さらに人が来たな。」

「わうんわうんっ…」

「いたいたーーーっ」


 聞き覚えのある声が2つ…銀太とリックだ。よかった~嬉しくて両手を振りまわしちゃうよーー…っと銀太が飛び込んできて危うくひっくり返るところだった。やっぱ毛並みやわらか~もふもふだわ~少しだけ獣くさいのが気になるとこだけど、お風呂とか入れてあげられないのだからしかたないよね。というか私もお風呂入りたい。あの廃教会お風呂ついてないし。


「ナナミ先行くなよな~まあ比較的安全な階層でアイテムも基本回収しないからいいけどさー」


 銀太をもふもふしてたらリックに軽くしかられてしまった。


「ご、ごめんなさい…でもここの虫はほんと無理…」


 アーシャさんとパメラさんが苦笑いをしている。たぶん理解はされてるってことかな。まあ先に来ちゃったことは誤ったからゆるしてよね?


「さて、俺らは休憩したからそろそろいくわ。」

「あ、ねえ君!もう1個、もう1個売って!」

「味は選べなくていいなら銅貨1枚でいいですよ?」

「じゃあそれで!」


 どうやらうざパーは狩りを再開するみたい。うざ姫(仮)が去り際にもう1個買っていったけど…あれ白かったわ。ちょっと刺激のある飴だね。まあ甘いには甘いから問題ないかな?


「ナナミは商人だったのか…?」

「え、違うけど…」


 なんかルシアさんがあきれた顔でこっち見るし。もしかして商人じゃないと物売ったりしちゃいけなかったのかな?


「いやな、なんか変わったもん売ってただろ?」

「あーこれですか…別にそんなかわったもんじゃないですよ?」


 ただの飴だしね?でもうざパー達も知らなかったみたいだしここの国には売っていないってことなのかな。


「食べてみます?なんか元が取れちゃったからお金いりませんけど。」


 みんなの手の上に飴を1つづつのせる。ルシアさんが黄色、アーシャさんが緑色、パメラさんが赤色、ついでにリックにもあげたけど白かった。もちろんランダムであげたんだよ??


「うわああ~あまいよぉ~」

「こんなもの持ってるなんて…もしかしなくてもナナミ金持ち?」


 パメラさんは素直に喜んでくれたけどアーシャさんがおかしな感想してるんだけど…私むしろ貧乏だよ?ちなみにアーシャさんのがメロン味でパメラさんのはイチゴ味。


「へーなんか食べると落ち着くな…」

「………」


 ルシアさんのはパイン味どうやら気に入ってくれたみたい。そしてリックは…


「悪意を感じるのは気のせいか?…あの味はどうみても甘い…解毒剤だったぞ……」


 だそうな。

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