第62話 地獄の苦しみと後悔
ここ数日涼達は暴れたカルタノ達が壊した街の修繕を手伝っていた。
これも勇者事戦隊の務めと涼が名乗りを上げたのだ。
「だいぶ直ってきたな」
「ああ宝石獣達も瓦礫を片付けてくれたりと手伝ってくれた余計に早くな」
ルビティラ達も瓦礫の山を掃除もとい食べてゴミを減らしてくれたのだ。
瓦礫の山は大半が鉱物だから宝石獣達には食べ物で全く問題ないからだ。
「涼、コハク!」
アリシアが護衛の兵士と共にやってきた。
「アリシア!」
「お姫様がブラついて大丈夫なんですか?」
「二人共城へ早く来て」
「何だよ?急に」
「急ぐんですか?」
「ええ、先代勇者の1人が見つかったの」
:
涼達は城の大広間へ集まり円卓に集う。
「先代勇者の1人が見つかったって?」
「ほっとけばいいじゃないか、あんな連中」
「そうですぞ!」
「皆んなの言う事も判るんだけど…」
あの馬鹿勇者達何かやらかしたのか?
「どうやら先代勇者の1人、カズ君が盗みを働いて逃走してるらしいの」
「は?盗み何で?」
「どうやら行く先々で門前払いを食らってるらしいでありますよ」
門前払いだぁ!?そりゃあれだけの事すれば世間が許すわけないからな。
「は、自業自得ですな」
「俺達が手を下すまでもないだろ」
「アイツらが貯めたツケだ。せいぜい味わうといいさ」
「でも、そうもいかないのよ…」
マナリアが申し訳なさそうな顔になる。
「凄い剣幕で武器やら食料やらを脅しては奪いまくってるらしんです。」
「は?追い詰められて落ちる所まで落ちたか」
「怪我人がでたり人を斬りつけて金品を奪って強盗までしてるんです。だから捕まえて欲しいと依頼が来たのよ」
「何で我輩達なんだ?」
「奴はカイアナス近くの村に潜伏してるって話らしいんだ。俺達が一番近いからだろうな」
「けどよのぶ。何で俺達がアイツらを捕まえなきゃいけないんだよ。」
確かに賊に成り下がったなら兵士でもいい筈だ。
「ごめんね。昔のよしみでどうしてもほっとけなかったの…」
成る程な読めた。本来なら様々な犯罪で打ち首が決まっている上にこの報告を受けて兵士が見つけ次第始末だったのを賢者マナリアが待ったをかけた訳ね。
「ひいお祖母様…そう言う訳だから、皆んな悪いけど捕まえるのを手伝ってくれる?」
「昔のよしみでほっとけないから、話をするためにアイツらを保護しろと」
「まあ確かに奴らには聞きたい事が山ほどあるからな」
「それに魔王軍の情報を持ってる彼らを生かすとは思えませんし」
それは確かに言えるな。奴らの居場所を知ってるはずだ。先に見つけて保護すれば奴らの情報もアジトも聞ける。
「仕方ないか、みんなとにかく行ってみようぜ。ベル場所を特定できるか?」
「お任せであります!」
「よし、とりあえずカイアナスへ向かうぞ」
涼達は直ちに馬車でカイアナスへ向かう。
目的は逃げた先代勇者の馬鹿3人の確保だ。
:
「はぁ…はぁ…」
しとしと降る雨の中、村はずれの森の洞窟に身を隠している先代勇者のカズ。
本名は杉本和樹。100年前ゲームのログイン中にブラキオサンドライトに召喚された先代勇者の1人である。ちなみにカズはアバター名だ。
「何で…俺がこんな目に…」
ボロボロのフードで身体を丸め寒さを防ぐカズ。そう全てはあの日、ゲームが終わった日の事だった。
カズ達は3人で暫くいたが体制を立て直すと称して一度別れて行動を始めたが。
ブラキオの言う地獄はすでに始まっていた。
何処へ行っても門前払いを受け。食べ物を頼めばタンや唾を吐かれて渡され、挙げ句の果てにほぼ毎日大勢から鉄砲で撃たれて殺されそうになる日々。
顔が割れている為何処へ行っても人は必ず武器を向けてくる。初めて自分が涼の言う通り人殺しをしていたと言う事実を思い知らされたのだ。
そしてついにやられまいと反撃し武器を奪いとり脅し食べる物と衣類を奪っい強盗に走ったカズは完全に自分がお尋ね者になったと自覚し今は盗んだ食べ物を分けて食いつないでなんとか生きている感じだ。
流石に毎日の異常な程のストレスと恐怖で気が狂い寝る事も出来ない。眠れば殺した人達が現れて悪夢を見せる。犯罪者はこんな気持ちなんだろうか。
「くそ…家に…帰りたい……母さん…」
カズは涙を流す。
今までの事が走馬灯の様に駆け巡る。
周りに溶け込めず夜遊びばかり、家ではたった1人の母親とも上手くいかず顔を合わせれば罵声を浴びせババア呼ばわりしてきた。
召喚されたあの日…俺は…母さんに言っちゃいけない事を言ってしまった…
それは親の財布から金を持って行ってカイト達と会う日だった。親にバレて口論になり俺はつい勢いで「うるせぇんだよっ!何が母親だ。ただの母体ってだけだろうがっ!!」
その言葉を聞いた母親は泣きじゃくり出て行けと叫んだ。俺は気にも止めずイライラしてたそんな中あの世界へ召喚されたんだ。
「クソが…」
俺はヤケになり奪ったナイフを胸に刺し自殺を図るが。
カキンッ!
身体にバリアが張られナイフは弾かれてしまった。これがブラキオサンドライトが与えた呪いだった。死にたくても死ぬことも出来ない。今のカズにはこれ以上ないほどの苦しみと地獄の毎日だった。
「く…う…う…母さん…会いてえ…よう…」
17歳の高校生には余りにも残酷すぎるがでもこれは消して許されないことをした彼への罰なのだ。
:
雨が上がると涼達は再びカイアナスへ出発し夕暮れに着いた。
「夕方になっちまったな」
「疲れたティラ…」
座り込むルビティラ。
「お疲れ様ルビティラちゃん」
「アレ?のぶどっか行くのか?」
「悪い俺は今日どうしても外せない用事があって店に戻らないといけないんだ」
「大事なお客さんですか?」
「そう言う事だ。悪いが適当に食ってくれ!じゃあな!」
信道はそう言うと予め作っていて仕込みを持って冷蔵庫を通って店に戻っていった。
「言っちゃったであります」
「まあ信道くんはお店もあるからね」
「最近はよく夜戻ってるよなのぶさん」
「まあ店もあるんだ仕方ないだろ」
「ご飯どうするでありますか?」
確かに今までは信道に任せっきりだった。
「たまには外へ食べに行くか?」
「お、いいですな!」
「カイアナスは港町だからお魚が美味しいわよ」
「行くであります!すぐ行くであります!」
「では決まりですね!」
「アレ?ひいお祖母様は?」
「マナリア様は一度サイネリアの家へ戻りました」
今日はいない人が多いな。
「よし俺達だけで行くか」
涼達は留守をルビティラ達に任せてカイアナスへ向かう。
カイアナスは港町で魚料理が上手い事で有名だ。ここんところ色々とあってちゃんと行くのは初めてかもしれない。
「お魚であります!ん?何か騒がしいでありますね?」
「大変だ強盗だ!」
強盗?まさか!?
涼達は声の方へ走る。
涼達が駆けつけると男が剣で肩を切り裂かれていた。
「俺の邪魔をするからだ!そこを退けば命はとらないでやる。早く退け後身ぐるみを置いていけ!」
フードをかぶり何やら見窄らしい姿の男が奪ったであろう剣で男を脅迫している。
「あ!先代の馬鹿勇者であります!」
「なっ!?お前ら何故ここに!?」
「そりゃこっちの台詞だ。何馬鹿な事をしているんだ。」
「もうやめて下さい。これ以上罪を重ねないで下さい!」
「五月蝿い!お前らのせいで…お前らのせいで俺は…俺は!!」
カズは声を上げると走りだし逃げた。
「あ、逃げやがった!」
「リア、ベル、アリシア怪我した人達の手当を頼む。俺達はあの馬鹿を捕まえるぞ!」
「「「オウ!」」」
涼達は逃げたカズを追いかける。
「はぁ、はぁ、はぁ!」
カズは息を切らせながらひたすら闇の中を走り逃げる。
捕まったら殺される。殺される。
「オイ、ちょっと待て!!」
「大人しく投降するんだ!」
「悪いようにはせぬから!」
「信じられるか!俺を捕まえてギロチンにかけるんだろ!」
駄目だ全く話を聞いてない。
「俺達はお前を保護に来ただけだ。話だけでも聞いてくれ!」
カズは森へ向かっている。
マズイ暗い森に入られたら見失っちまう。
「森に入れば逃げられる!」
「逃すかティラ!」
「え!?」
ルビティラが回り込み尻尾でカズに足払いを食らわせて転ばせるとのしかかり動きを止めた。
「召し捕ったりたりティラ!」
「ルビティラ。どうして!?」
「飯を探してらコイツが見えたから捕まえたティラ!」
何ともいいタイミングで。
「く、離せ!」
「五月蝿いティラ!」
ルビティラは体重をかけて押さえ込んだ。
「観念するんだな」
「お前には聞きたい事が山ほどある」
「大人しくしてもらうぞ!」
「くっ!」
「お前らちょっと待て!」
涼がカズに近づく。
「手荒な真似して悪いな」
「今更何だよ…処刑の依頼か?」
「ちげぇよ。お前は知りたい情報を持っているんだ。後、昔馴染みが保護してほしいと言ってたんだよ」
「…もう…いい…好きにしろよ…」
「悪いが来てもらうぞ」
涼達はカズの腕を鎖で縛り拘束した。
涼達は馬車へ戻り合流したアリシア達と共に冷蔵庫を通りガネットへ戻る。
そしてすぐさまガネット国王がカズを牢屋へ放り込んでしまった。
「悪いが暫くそこに居てもらうぞ。俺が王様に話してくるからよ」
「俺は…処刑されるんだな…ははは…これで死ねる…母さんの元へ行ける…」
「馬鹿言ってんじゃねーよ!お前はまだ死なす訳にゃいかねーんだ。大人しくしてろよ!」
涼がそう言って牢屋から出て行くとカズは懐に隠していた針金を取り出した。
:
「王様頼む。アイツらを処刑するのは待って欲しいんだ!」
「ですが涼殿。あの者は我が国を恐怖へ陥れた犯罪者ですぞ。そっこく首を落とすべきです」
「でもアイツらは勇者だったんだろ!」
「それは昔の話です。彼らのせいでこの世界の均衡は崩れた上に魔王まで復活したんですぞ。いくら涼殿の頼みと言えども彼らの刑は決まりました。」
王様は曲げないか。
自分の国を玩具にされたからな。糸を引いたのは泥棒女だが。それでも許せる訳ないか。
「王様頼む。アイツらを俺達に預けてくれないか?」
涼はそう言ってなんと土下座をした。
「涼!頭上げなさいよ!」
「涼殿、何故あんな奴らを庇うのですか!」
「ハッキリ言うが自業自得だ!」
「死んで当たり前の事をしたんだ。例え騙されたとしても周りは納得しない」
「涼さん、何でそこまで?」
涼は何故か彼らがこのままでしかも死刑で済ますなんて言い訳ないと思うのだ。
「確かにアイツらは許されない事をした。ハッキリ言って確かにアイツらは全面的には悪いし庇う義務なんか無いかもしれない…でもよ…」
「でも何?」
「アイツらは…ただの馬鹿な子供なんだよ…まだガキだ…」
「それで済まして言い訳ないだろ!」
「わかってるさ。だからこそちゃんと償わせないと駄目だ。死んだらそれで終わりだ。何よりアイツらも被害者だ…それをちゃんとわかってやらないなんて…そんなのヒーローじゃない…」
「涼、お前の世界の理屈で片付くような話じゃ…」
「俺も賛成だ!」
「のぶさん!」
信道が玉座の間へ入って来た。
「のぶ話を聞いてたのか?涼のやり方は甘いし生ぬるい!あんな奴らに情けなんか!」
「このまま殺したら奴らの情報も入らなるし、何より涼の言う通り人を助ける者としては一方的な言い分で片付けるのはどうかと俺も思う」
「たけど!」
「俺の爺さんは敵味方関係なく周りで人が理不尽に死んだ光景の中召喚された」
信道は第二次大戦中に召喚された先代勇者である祖父を語る。
「死んだら終わりなんて一方的すぎる。どうせ人はいつか死ぬんだ。アイツらだって家に帰りたかっただけだ、まあ思春期故の若気の至りだ。仏の皮も三度までってな最後のチャンスくらいやろうぜ!」
のぶさん…全く本当にいいタイミングで現れるよなこの人は。
「みんな頼む。アイツらが次また馬鹿をやったらその時は俺が殺る…だからアイツらに償いの機会を与え欲しい。頼む!」
涼は皆に必死に頼み込む。
「涼って馬鹿なんだかお人好しなんだか…でも、やっぱり貴方は勇者ね!」
「アリシア」
「そうですね、話せばきっとわかってくれますよ」
「我輩も今回ばかりは賛成しかねますぞ」
「君だけじゃないさルーガル」
「たく、どいつこもコイツも馬鹿ばっかだなもう〜わあったよ。でも俺達は一切なんもしないからな」
「ああ、王様!」
「はぁ〜涼殿には命を救って貰いましたからな〜悩める若者を助けるも戦隊ですかな?」
「王様…ああ。そうだ悪に落ちた奴を更生させるそれも戦隊の仕事だ!」
「何でも戦隊で結びつけるんじゃない」
「のぶさん。ありがとう!」
「別に俺は昔話を語っただけだ」
大人な態様だぜのぶさん。
「わかりました。では先代勇者たちは涼殿に一任します。ですが彼らがまた犯罪を犯した時はわかってますな?」
「ああ、わかった。ありがとう王様」
「報告します!」
「何ごとだ?」
「先代勇者が脱走しました!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます