第5話 ゆきてはかえり

さよなら、が瞬いては消えて


こころに小々波もおきない

からだの輪郭はどこかに消えて

狭い部屋でちいさな湖になって


水源へ染み入ってゆく

くらいくらいばしょ

ひかりしかないばしょ

ただいまもさよならも


めぐっていく、すべてあらいながされて

わたしは杉林をうつ雨、水車を廻す流れ

山から湧きあがるしみず、頰をつたう流れ


そしていつかの水路で近寄っては離れる

さくらの花びらもやがて色をうしない

別たれていく、わかっていながら

手を伸ばしてはさよならが瞬く


わたしはちいさな湖になり

水源へと染み入っていく

くらいくらいばしょ

ひかりしかないばしょ

わたしはわたしに還って


はじめましてただいまさよなら

今年もちゃんと桜が散っているよ

狭い部屋でひとり、ポットのなか

水は沸き立ちながら鳴いている

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