第3話 私の国

ここは私の国ではないから

わたしの言葉は通じません


何を言われているのか言っているのか

水の中で互いにぶくぶくしながら

ただただ息苦しくてしがみついてたから

爪は剥がれ肉も削げて皮膚のしたには

鱗がきらきら、いつの間にやら鰓呼吸

澱んだ海に棲むものになってしまいました


海面へ遠ざかっていくあなたは

とても正しい発音で話している

でもそこも私の国ではありません


さよなら、に

白紙の手紙だけ残して

さらに深く深くどこまで

いけばいいのでしょうか


あなたの言葉を創造して

あなたもわたしの言葉を

創造して背中合わせで

生活のふりをしていた

こしあんだとか

つぶあんだとか

そんなつまらなさ

泡になってきえて


私は私の国を編んで

たくさんの貝たちに

息を吹きこみ

痩せて尖った

剥き出しの骨は

魚たちが

密やかに啄み

段々と丸くなり

今ではもう優しい眼をした

鯨だって描けるのです


ここは私の国、わたしが

わたしの言葉で編んだみな底

歩き続けていつか陸へと戻る

陽の光が息を吐く場所で

こしあんを食べようが

粒あんを食べようが

自由なんだ


でも私はうぐいす餡が好きなんだよ

知ってた?

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