放課後ショータイム

六畳のえる

料理番組


「母親がさ、たまに料理番組とか見るんだけど、先生ってすごいよな。喋りながら料理するとかホント器用だと思う。」

「えー、アタシたまに手伝ったりするけど、割と楽だと思うよ、喋りながら作るのって」

「マジで?」

「うん、夕飯のおかずくらいなら朝飯だよ」

「一文字抜けたせいでびっくりするくらい意味が分からない」

 朝飯前な。


「ちょっと雰囲気だけでもやってみるよ」

「雰囲気じゃ意味ないだろ」

 調理が大変だっつってんだろ。


「まあまあ、いいからいいから、ちょっとアシスタント役やってね」

 放課後の教室で何してんだよ俺達は。

「はい、皆さんこんにちは! 今日も始まりました、『活かそう、昨日の余り物』」

「カット」

「えーなんでー」

「タイトル何とかしろよ」

 正直の度が過ぎませんか。


「じゃあやり直しね 皆さんこんにちは! 始まりました『今日の料理』」

「先生、よろしくお願いします。さて、すっかり寒くなってきましたけど、今日のお料理のテーマは?」

「そうですね、テーマというのは特に決めてませんね」


「なるほど、わかりました。それではメニューの紹介に移りましょう」

「メニューも特に決めてませんね」

「そこは決めろよ!」

 お前番組見たことないのかよ! 



「じゃあ豚肉とキャベツの炒め物にします」

 おもむろに材料をまな板に乗せる。

「まずは材料を切っていきましょう」

「はい、わかりました。先生、キャベツはどのように切るんですかね?」

「輪切りですね」

「輪切り……」

 広い円を描いて切れるキャベツ。孔雀の羽かよ。


「では先生、豚肉は……」

「かつら剥きですね」

「もっと現実味のある指示をしろ!」

 いつも何の料理お手伝いしてるの? ねえ?


「ちょっとほら、アシスタントも喋ってよ」

「分かった分かった。あーでも先生、この豚肉、とても質がいいですね! アシスタントの私でもすぐわかりましたよ」

「はい、そうです! なんてったってこの豚肉は国産牛100%ですから」

「どういう偽装なの!」

 安い肉に偽装するって何なんだよ!


「んもう、いちいちうるさいなぁ」

「つまんないこと言ってないで、どっちの肉かだけはっきりしろよ」

「はいはい、分かりました。ホントはマトンです」

「どっちでもないなんてことある!」

 あとチョイスが羊って。 


「では切れたところで焼いていきます」

「先生、焼き加減の目安は?」

「そうですね、狐が憑くくらいですね」

「お稲荷さん作ってんのかお前は」

 色ね。キツネ色。


「はい、そして味付けですが、塩コショウを謝々」

「誰に感謝してんの」

 サポートしてる俺に感謝してくれ。



「では焼いている間に付け合わせを作りましょう」

「お、いいですね、食卓に華やかさが加わりますね」

「では今日は煮込みうどんを––」

「付け合わせろよ! 主食じゃん!」


「まずいの?」

「いや、付け合わせって言ったら普通はサラダとかさあ」

「じゃあ、サラダと煮込みうど––」

「うどん諦めろ! どんだけ好きなんだ!」

 もうやだこの先生!





「ったく、無駄な時間使った。帰んぞ」

「おう、帰ろう。あ、ねえ、遅いしファミレス寄って夕飯食べようよ!」

「ま、たまにはいいか」


「やったぜ! じゃあアタシ、うどんにする!」

「さっきから食べたそうだったもんな……」

「うん、皿うどんにする」

「そこ煮込みじゃないんだ!」

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放課後ショータイム 六畳のえる @rokujo_noel

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