野菜炒め

「こんにちは~。いっちゃーん~。いる~」

 どこからか声が聞こえる。

「いっちゃーん!」

 どうやら玄関からである。この声は東雲だ。急いで階段を降り、玄関先に向かう。そこには、緑色の上下のジャージを着た東雲がめちゃくちゃ膨らんでいるバッグを持っている。

「あー。いっちゃん。どうも」

「どうしたの?」

「うちの親がさ、これ持ってけって」

 東雲がぐいっとバッグをこっちに渡してくる。中には大量の野菜が入っていた。キャベツ、ピーマン、オクラ、カブなどである。

「特にカブがおすすめ」

 東雲がこれまたまぶしい笑顔で笑っている。

「うちのカブはこの町一番だと思ってるよ」

「なんか悪いね」

 東雲がジャージのポケットに手を突っ込み、ふくれっ面をした。

「そこはありがとうでしょ」

「うん」

「うん、じゃなくて」

「ありがとう」

 東雲はポケットに手を突っ込んだまま今度は笑顔になる。

「よろしい」


「そういやさ、おばさん居ないの?」

「今ちょっと商店街まで買い物に行ってる……」

「そっか……」

 なんか東雲、もじもじとしている。

「どうしたの?」

「まあね」

「ともかく上がって待ってたら?」

「いいの?」

「いいよ」

 東雲はとてもうれしそうだった。東雲は「おじゃましまーす」と言うと、うちに上がった。そして部屋に来た。野菜の入ったバッグは、台所に行って、冷蔵庫の中の野菜室に入れた。自室に入ると、東雲はベッドに寝っ転がってゲームをやっていた。

 お互いに無言である。気まずい。余りにも気まずかったので、

「ちょっとお茶とお菓子取って来るから。ゆっくりしてて」

 そしてお茶とお菓子を持って部屋に行き、二人でお菓子をむさぼり食っていると、お袋が帰って来た。お袋が部屋のドアを開けると、東雲はお邪魔してます。と言った。それから、「うちのお母さんからおすそ分けもらってきました」と言った。それからしばらくお袋と東雲が話していた。

「そうそう、お昼ごはんまだでしょ。今作るから食べて行きなさいよ」

「悪いですよ」

「いいから食べて行きなさい」

「いや……」

 その時、母親の一言が、

「子供が遠慮するもんじゃないでしょ。いいから食べて行きなさい!」

 東雲は「ありがとうございます」と言う。それから東雲は、

「じゃあ、私、お料理お手伝いします!」

「あら、助かるわ~」

 二人は一緒に階段を降りて行った。急に静かになり寂しくなったので一波も下に降りる。


 台所に行ったら、東雲が野菜を洗っていた。お袋はというと、冷蔵庫にある野菜を見ている。お袋は一波が来るのを見ると、

「一波、あんたちょうどいいから手伝いなさい」

「え~何で?」

「野菜炒めだから簡単だから」

 その時、東雲が笑顔で、

「いっちゃん、手伝ってよ。ねっ」

 東雲に言われちゃ仕方がない。

「分かったよ。手伝うよ」

 その時、お袋が、

「そうだ、二人で野菜炒めを作ってみなさいよ。ここにある野菜とか使っていいから」

「ちょっと待ってよ。母さん」

「じゃ、お願いね」

 お袋はちょっと畑行ってくるって言って出て行ってしまった。

「仕方ないなあ。東雲さん、野菜炒めの作り方分かる?」

「まあ、何となく」

「じゃあ教えて」

「ん。分かった」

 まず冷蔵庫の中からキノコとキャベツとピーマンとカブ、豚ひき肉を出した。それに粉末状の出汁。それに塩、こしょう。

「じゃあキャベツ洗って」

「分かった~」

 キャベツの葉を何枚も取り一枚ずつ洗っていく。その時、東雲に、

「そんな雑な洗い方じゃダメでしょ」

 東雲に手をぺしっと叩かれた。

「ちゃんと食べてくれる人のことを考えて洗って。相手のことを思って」

「はあい」

「分かったらよろしい!」

 東雲はカブをじゃぶじゃぶと洗っている。そこでまた注意が入った。

「使い終わったものは片付けること!」

「はい……」

 注意されて出しっぱなしのものを片付ける。それからキャベツ、カブ、キノコを切っていった。

「どのくらいの大きさに切ればいいの」

「食べやすい大きさだよ」

 東雲は続ける。

「大きすぎず、小さすぎず、ちょうどいい大きさ」

 それから、カブやキャベツ、ピーマンなどをひと口大の大きさに切った。


 東雲は油を引いて肉を炒める。ジュージュー音がしている。換気扇を回す。肉に火が通ってきたらカブやキャベツ、ピーマン、キノコを入れる。そして塩、こしょう、出汁を入れる。そして、お玉でかき回していく。しばらくして野菜がしんなりとしてきた。東雲が横にやって来てどれどれと小皿に野菜炒めを少し取って味見をする。

「ん。おいしいっ。ちょっと味見してみて」

 味見をする。美味い。めちゃくちゃ美味い。顔がにんまりとする。

「どう。おいしい?」

 東雲が顔を覗き込んで来る。思わず離れた。

「おいしい……。めちゃくちゃおいしい」

「良かった~」

「いっちゃんにおいしいって思ってもらいたくて……」

 急に東雲が恥ずかしいことをさらっと言ってきた。恥ずかしくなって、

「ちょっとお皿とか並べてくるよ」

 そういって逃げた。


 それからお袋も戻って来て、東雲とお袋と一波で三人で昼飯を食べた。お袋はおいしいわ。いいお嫁さんになれるわとか、そんなこと平気で言いながらばくばくと食べている。

「いっちゃん、おいしい」

「おいしいよ」

 自分で自分用に作るのとはただの野菜炒めでも全然味が違う。


 ひと口大に切ったカブをほおばる。中から汁気が出てきてジューシーでほんとうにおいしかった。

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