近所のお寺のお祭り!

 今日は近所のお寺でお祭りがあるとのことである。お祭りは好きである。何をって、雰囲気? 雑踏? 花火? いんや違う。屋台で買った牛串やおおだこの串焼き、ほたての串焼きなど、たこ焼き、焼きそばなど一杯食べられるからである。いつもはひとりでお祭りに行って雑踏から離れた静かな場所でそういった食べものをたくさん食べ、おみくじを引いて、神様にお祈りして帰って来る。それがいつもの日課だった。それが今年は……。


「いっちゃん、祭り今から行くからすぐ用意して!」

 ラインが来てそれからすぐに東雲がやって来た。そうして僕の部屋に居座ると、ベッドに寝っ転がってリズムゲームを始めた。そうして寝っ転がりながら、

「ささっと用意して。こっちも忙しいんだから」

 服をタンスの中から取り出すと、その場では着替えづらいのでトイレに籠って着替えた。着替え終わり、部屋に戻ると、

「ちょっと待って! このあと二回終わったらいこうよ」

 東雲はピコピコとゲームの音を鳴らしながらゲームをしている。仕方がないのでメモ帳を取り出すと、小説のアイディアを考える。しばらくして、

「さあ行こうか」


 僕たちの行くのは夜ではない、昼のお祭りである。しかも東雲はお祭りだというのに、浴衣とかではなく、長袖のTシャツにジーパンである。いつも通りの格好である。背中にはリュックサックを背負っている。自転車で神社まで向かう。途中からおコンが肩にの勝っていた。前を行く東雲に聞こえないように、おコンに話しかける。

「おコン?」

「なんじゃ?」

「おコンも祭りに行くの?」

「うん。ホタテの串焼きと牛串とたこ焼きとお好み焼きが食べたくて」

「そんなに食ったら太るんじゃないの?」

 おコンはまじまじと僕を見つめていた。

「そうだなあ……」

 やっぱりおコンは僕の顔を見つめている。

「何?」

「やっぱりいいな……」

「何が?」

「一波さ? 今までずっとひとりぼっちで生きてきたじゃん。何をするにも寂しさを感じていてさ」

 ドキリとした図星な発言をされるとこころが傷む。思わず声を荒げてしまった。

「それが何? 悪口でも言いたいわけ?」

 おコンはゆっくり首を振り、

「そう……なんで、攻撃的になるのさ。うれしいんだよ」

 おコンは顔に生えているヒゲを撫でつつ、

「こうしてお祭りや釣りを一緒にする仲間が出来てさ」

 一気に感情がしぼむ。

「うん」

「生きてりゃ、いいことあるんだね。嫌なこともあるけどさ」

「そうかな」

 おコンは唄う。


 そーりゃんせ そーりゃんせ

 生きてりゃ いいこと 悪いこと ごったまぜ

 いいことばっかじゃ ありがたみが分からんさ

 焼けつくような痛みがあったから 余計にわかることもあるんだね

 こころの痛みが分かったから、人のやさしさに気づけたよ

 そーりゃんせ そーりゃんせ

 そーりゃんせ…… そーりゃんせ……


 おコンは唄う。哀愁のこもった声で空に唄う。

 そうしておコンは僕を抱き締めると、

 「神様、本当にありがとう」


 恥ずかしくなってそのまま黙って自転車を漕いでいた。


 神社に着く。人がごった返していた。自転車を自転車置き場に置くと、東雲は

「とりあえず休憩―」

 東雲は自動販売機で買ったレモン水のふたを開けてごくごくと飲む。さっきおコンに「仲間が出来てよかったね」と言われたのを思いだしてまじまじと東雲のことを見る。東雲はしばらくレモン水を飲んでいたが気がついたのか、

「何、顔になんかついてんの?」

「うんにゃ」

「じゃあ何よ」

「東雲のこと、友達だと思ってもいいの」

 東雲はしばらく黙っていたが、やがて顔を伏せて

「友達だよ」

 東雲はいつの間にか僕の手にそっと触れた。そしてお互いにぱっと離れる。東雲がか細い声で言う。

「ずっと友達でいようね」

 と。それから、東雲と屋台巡りをした。食べもの屋ばっかり巡った。もちろん、牛串やホタテ串や大だこ串などを買った。あとたこ焼きも。いろいろと買って東雲と階段に座りながら雑踏をずっと眺めていた。


 おコンがどこからかやって来てギターを片手に唄い始めた。


 コン、コン、コン

 狐の子がやってきた

 コン、コン、コン

 どこからともなくやってきた

 泣く子はいるかい

 そう そう 君のこと

 泣いてばかりの君のこと

 辛いかい 悲しいかい 情けないかい

 もしかして自分の弱さが嫌なのかい

 もしかして自分の性格の悪さが嫌なのかい

 ずっと晴れな日はないのと同じで

 ずっと雨の日もないのと同じで

 晴れる日もあれば雨の日もあるんだよ

 だから君も今は辛いかもしれないけど

 ハッピーになれる日も来るよ

 辛いことの多いだけハッピーの美酒に酔えるかも知れないよ

 だからかけがえのない自分を信じてあげて

 狐の子と約束だよ

 コン、コン、コン

 ココン、ココン、ココン、ココンのコン

 ココン、ココン、ココン、ココンのコン


 おコンは空に向かって声を張り上げるが誰も気づかない。おコンはじゃらんじゃらん言わせながら唄い続ける。いつの間にか雨が降って来た。おコンは雨に負けずさらに声をっ張り上げる。おコンの声がかすれて出なくなる。おコンはギターをやさしくそれでいて熱く引き続けた。その音は空へと吸いこまれていった。

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