川釣りを教えてもらった
「今度の日曜日は釣りに行くつもりだからそのつもりで」
ここは東雲の部屋。東雲が釣り道具を点検している。
「釣れるかな?」
ちょっと不安。
「だーかーら、教えてやるて言ってるじゃん」
今度は小物入れを取り出して重りなどや仕掛けなどを確認している。しばらくその様子を見ていた。すると、東雲は、
「じゃ、行こうか」
「どこに?」
「釣具屋」
「何か足りないの?」
「エサだよ。エサ。エサがなけりゃ釣れないじゃん」
「エサって何買うの?」
「とりあえず、ブドウ虫とミミズかな」
東雲はこの間買ったリュックサックを背負うと、
「じゃ行こうか」
バスと電車を乗り継いで着いた先はとある結構でかい釣具屋である。釣具屋の中に入ると、人が結構たくさんいた。レジの近くに冷蔵庫みたいなものに釣りエサは入っていた。
「これがブドウ虫」
東雲がブドウ虫の入っているタッパーの中を開けて見せてくる。中には何匹もの幼虫? みたいな虫たちがうごめいていた。
「これのブドウ虫を釣り針に引っ掛けて釣るんだよ」
その後、いろいろと中を見て回った。釣り竿とか、仕掛とか、などなどである。
「僕も釣り竿買おうかな」
東雲は顔をしかめた。
「止めときな。私の古いの貸してあげるから。しばらくそれ使っときな」
「でも、欲しいな……」
東雲はポケットに手を突っ込むとずんずんと先に行ってしまった。着いていく。
「何で、怒ってるの?」
「上手くなってから、自分用の釣り竿買いな! 分かった?」
「うん」
「じゃあ、行こうか」
東雲は、ブドウ虫の入ったタッパーとミミズの入った箱を一袋ずつ買った。そして、帰り際にブドウ虫の入ったタッパーとミミズを渡してくる。そして、
「これ、日曜日までに冷蔵庫に入れて置いて」
「え~何で?」
「金、うちが出したんだからそれぐらいいいでしょ!」
「え~」
「え~じゃない!」
結局、ブドウ虫とミミズを受け取り、自宅の冷蔵庫に入れた。しばらく母親の悲鳴とお説教が続いた。
そして日曜日、晴れ、雲少し流れている。この日、昼1時。母親におにぎりを作ってもらい、それをバッグに入れる。ついでにブドウ虫とミミズも。そして玄関前にて待機する。しばらくして東雲がやって来た。
「じゃ、行こうか」
今日行くのは穴場だという。しばらく歩く。途中から道なき道を歩いている。先を行く東雲が木の枝を振りながら歩いている。
「東雲も子供っぽいところあるんだね」
「何が?」
「木の枝振りながら歩いてんじゃん」
「ああ、これね」
東雲が木の枝を見せてくる。クモの巣が大量にくっついていた。
「分かった? 道にクモが巣を作ってるから、どかしながら歩いてんだよ」
それからしばらくクモの巣を注意してみるようになった。とにかくクモがでかかった。生理的に近づきたくなくなるほどに。黄色と黒のまだら模様。おどろおどろしかった。ともかく、川の近くまでやってくる。そして巨大な岩の上に着く。岩は斜めに傾いていた。
「落ちないように気を付けて」
下は深い緑色をした川の流れの淀みが静かに佇んでいる。東雲はほいと僕に釣り竿を渡す。釣り竿は竿を伸ばして使うもので、針と糸が巻いてしまわれていた。ほどいていく。東雲が、
「糸、こんがらせないようにね」
四苦八苦していると、早くも東雲は竿を伸ばし、針にブドウ虫を付けた。ここでまた東雲に、
「いい? こうやって虫の腹から針を入れて、通して腹から出す。分かった?」
東雲はあぐらをかいて座り、釣り具がたくさん入っているリュックから虫よけスプレーを取り出すと、自分にシューと掛け始めた。首回りは手で塗っている。そして、僕にほらっと寄こして渡した。
「使いな。このへん虫多いから」
釣り竿を脇に置いて、虫よけスプレーを使う。使い終わって東雲に返すと、
「じゃあ、ちゃっちゃと釣り竿用意しな」
東雲は糸を川の中に垂らす。時々、竿を引っ張る。なんとか用意が出来た。教えてもらった通りに虫を針に通し、糸を川の中に投げる。その時、また東雲から、
「そうじゃないよ。竿のしなりを利用して糸を投げ入れるんだよ。次からそうやってみ」
しばらく二人で糸を垂らしていたが、先に東雲が釣り上げた。結構大きい魚だった。
「やったね!」
東雲はスマホを取り出すと、釣った魚を写真に撮った。
「何かに使うの?」
「いんや。何となく」
その後、一波の竿にも魚が掛かった。小さかったが初めて釣った魚である。愛着が湧いた。ちなみに釣った魚は逃がす。夕方になって太陽が山々を赤く染める。川は相変わらずさわさわと流れている。腰に下げているカメラで何枚か写真を撮る。
「何に使うの?」
東雲が聞いてくる。
「小説の題材で、釣りのこととか書けたら面白いかなって思って……」
「ふーん」
東雲は右手で髪をかき上げた。
「じゃ、そろそろ戻ろうか?」
「えっ、また明るいじゃん」
「すぐ暗くなるから。撤収撤収」
そうこうしているうちにどんどん暗くなってきた。二人でアスファルトの道に戻って来たときには、もう暗くなる一歩手前であった。今日は東雲の家の前まで送って行った。
東雲は「ありがとね」と言うと、家の中に入って行った。さあ帰ろうかと思って歩き始めたら、後ろから、「ねえー!」と声がした。振り向くと、東雲が、
「小説出来たら私にも見せてね!」
大声で返す。
「いいよー!」
「約束ね!」
そんな風にずっと二人で大声で話し合っていた。
空を見渡すと、星がちらほらと見えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます