自転車で山道はきつい
ブルルルルッ! ブルルルルッ!
スマートフォンが振動して何か連絡がきたことを知らせてくれる。今は夜中の1時。短編小説を書いていたところであった。内容は青春小説である。電話に出る。
「何?」
「何とは何よ!」
「もう夜中の1時だよ」
すると、東雲はとんでもないことを言葉にして放った。
「明日、自転車で町まで行くからついてきなさい」
「えっ?」
「リュックサックが壊れちゃったからさ、新しいの見たいんだよ」
「バスで行かないの?」
東雲はそれには答えず、
「明日8時に家まで迎えに行くから準備しといて。じゃ!」
ツー ツー ツー ツー ツー
一方的に電話を切られた。自転車で町までって、何キロあんだよ。仮に町まで行けたとしても帰って来るのが大変だよ。どうしよう。とりあえず、小説を今まで書いたところまで保存してパソコンをシャットダウンして片付けた。そうして、目覚まし時計を7時にかけると、部屋の電気を切り、布団に入って目をつむった。
狐の子がいなりずしを山のように買ってもしゃもしゃと食べている。狐の子はおコンだ。なぜかおコンだと分かった。おコンは他にもきつねうどんなんかも片手間にうまいうまい言いながら食べている。おコンは、
「明日、東雲さんとデートだね」
僕はにやにやと笑っている。顔がだらしない位ににやけている。
「大丈夫かな」
「一波も、ショウガ入りきつねうどんを食べて元気を出しんさい。刻みねぎも入っとるよ」
ほかほかのショウガ入りきつねうどんが入った丼を受け取る。そして、ふーふーと言いながらうどんをすする。ショウガがシャキンとした味を出していておいしい。一息に全部食べ終わる。すると、
「頑張っておいで」
遠くの方で、ジリリリリリリリと何かが鳴っている。その音はだんだんと大きくなる。大きくなる。うるさい。その時はっと目が覚めた。夢だったのだ。
慌てて目覚まし時計の音を止める。ベッドから起きると、服をタンスから出し着替え始める。その後、一階にある台所に行き、冷蔵庫から白米を出し、レンジに入れレンジのスイッチを入れ温める。そして温め終わった白米に生卵を入れ、わさびと出汁の基としょうゆを垂らす。そしてかき混ぜて食す。うまかった。時間は7時40分。そろそろかな。その時、スマートフォンがブルブルっと震えた。慌てて電話に出る。
「今、いっちゃんの家の前にいるよ」
「じゃあ、すぐ出る」
一気に白米を腹の中に入れると、カバンを背中に背負い、靴を履いて出る。家の前には、つば付き帽子を被り、青色の長袖のシャツを着て古びたジーパンを履いた東雲がいた。東雲は何かスマホでゲームをやっていた。近づく。
「待たせたね」
「ちょっと待っていいところだから」
スマホを覗き込むと、リズムゲームだった。数分間待つと、東雲が顔を上げた。
「ごめん、ごめん、途中だったからさ」
「リズムゲームって面白い」
「慣れると面白いよ」
「今度教えてよ」
「分かった~」
と言うと、東雲はあごをくいっとやり、
「早く自転車取っておいでよ」
「分かった」と言うと、車庫に置いてある青く塗られている自転車を引っ張り出して玄関前まで行った。
「じゃ、行くよ」
東雲はこっちの様子を見て、用意が出来たのを確認すると、自転車をうんしょと漕ぎ始めた。そのまま自転車を漕ぎまくる。途中から人家が無くなった。コンクリートの坂を上ったり降りたり、結構きつい。ペダルが重くなっていく。東雲に付いていくのがやっとである。大声を出して東雲に確認する。後どのくらい。
「まだまだ」
「時間は?」
「後、……ほどだね」
風の音で聞こえなかった。もう一回聞く
「聞こえなかった。もう一回言って!」
「後、2時間ほど」
後、2時間も続くのか……。
「やっぱり帰るよ! 疲れた!」
「そんなこと言ってるならまだ大丈夫。漕いで!」
その後も、帰る帰ると一杯だだこねていたが、途中で広い広場に着いた。
「ちょっとここで休もうか?」
自転車を投げ出し、その場所にごろりと横になる。そして目をつぶった。東雲が、はいと言っている。目を閉じたまま、
「何?」
「お茶いらないの?」
目を開けると、水筒のふたを渡してくる。
「ありがとう」
東雲が水筒からお茶を水筒のふたに入れる。そおっと飲む。熱すぎず、ぬるすぎずちょうどよかった。
「おいしい……」
東雲は満面の笑顔を浮かべると、
「よかった」
東雲がふたを僕からもらうと、お茶をくんでごくごくと飲んでいる。しばらくその広場でだらだらとしていたが、やがて東雲が立ち上がり、
「行くよ」
そうして町へのサイクリングが再び始まった。
いろいろと大変だったが、無事町まで着いて、商店街にあるリュックサック売り場へと向かう。東雲はいろいろと1時間ほど悩んで、ひとつのリュックサックを買った。売り文句は丈夫ですと書かれていた。飾り気がないがいろいろと見た目でみて丈夫そうな印象を受けた。
「ありがとね。一緒についてきてくれて」
「いいよ」
秋の風景に東雲の姿が浮かび上がる。東雲はひまわりみたいな満面な笑顔でぼくをみている。照れくさくなって慌てて顔をそむけた。
そして帰りもひいこら言いながら自転車で2時間ほど漕いで家に帰ったとさ。自宅の自室のベッドに倒れ込んだ時、そのまま眠ってしまったのはまたの話。
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