おコンのお守り

 今日は店長に言われて食材の買い出しである。一時間に一本しかないバスを気長に待つ。近くには橋が架かっていてその下に川が流れている。R川という。橋の上から見る景色は最高である。すぐ下には川がざあざあと流れていて、魚群も見える。時々、何か分からない鳥が川をすれすれに飛んでいる。川は深いところと浅いところがあって、深いところは濃い青緑色をしている。浅いところは、流れる川が石にぶつかりつつ、白いしぶきを上げて流れている。遠くの山々では一面緑である。緑と言ってもいろんな緑がある。赤っぽい緑、黄色っぽい緑、深緑などなど。のどかものどか。鳥がのどかな声でさえずっているし、魚ものんきに泳いでいる。

 とここでバスが来る。半券を機械から取り、バスに乗り込む。バスが発車する。しばらく山々の風景が続く。いつも思うのが、バスの道で途中の山道で夜中に放り出されたらたぶん死ぬかそれに近い状態になるだろうなと思う。夜中に暗い山を眺め、川のせせらぎを聞くと、怖いなあって思うことがある。そんなときに、やっぱり何かしら神様っているんじゃないかなって思う。

「神様はいるよ」

 カバンの中から狐の子が顔を出す。

「おコン参上」

 あわててカバンの中におコンを隠す。おコンは、無理やり顔を出すと、

「周りに見えとらんて。安心しなさいな」

 小声でこんなところに出てくるなよって言う。後、「今までどこにいたんだよ」とも。

「実家に帰っとった」

「実家って?」

「とある稲荷神社だよ。いつも言ってんじゃん」

 おコンは周りを見渡すと、

「それより今日は何で町まで出るん?」

「食材の買いものだよ」

 おコンに店長からもらったメモを見せる。

「ほうほう、キャベツにピーマンなど野菜に、ひき肉などの肉類……」

「それでいくら預かったん?」

「5000円預かった」

「どこで買うん?」

「店長が言うには、安くて新鮮でおいしい野菜を売っている八百屋とかいろいろ教えてもらったよ」

 そうこう話をしているうちに、町まで出た。ブザーを押してバスから降りる。それから地図を見ながら商店街まで歩いていく。結構この町も歴史があるので、古い建物が多い。さらには田んぼまである。稲穂の金色がまぶしい。さらには、途中途中に無人の野菜の販売所まである。今度時間がある時にのぞいてみたい。金色の稲穂の揺れる風と雲流れる空の風景はすごい好きである。遠くには山々が連なり、目の前には古びてさびた鉄がむきだしの標識。すごく絵になる。

 と風景をぽけーと見ながら歩いていたら道に迷った。たまたま通りかかった車を引いたおばあさんに道を聞く。おばあさんは最初、警戒していたが、「商店街はどこでしょうか」と聞くと、快く教えてくれた。ありがとうございますと言って別れる。教えてもらった通り歩いていく。目的の商店街があった。まずは八百屋である。八百屋はすぐに見つかった。人がごった返していたからである。店に入る。キャベツ○○円とかであった。ピーマンも安い。とここで、目的の野菜のほかに野菜のぬか漬けも買う。店長の好物である。いろいろと買い物かごに入れると、店員さんの前に並んだ。店員さんはおばあさんであった。おばあさんは、商品を見ただけで値段を打ち込んでいく、ほいほいと。それで「はい、お会計、いくらです」という。


 なにこれ、めちゃくちゃ安い!


「ありがとうございました」の声とともに店を出る。山盛りの野菜。すごくいい。しかし重い。腕がつりそうである。でもまあ、その後、肉屋さんに行って大量の肉を買って、おまけにほくほくの牛肉コロッケを10個買って、そしてその他もろもろ買って帰途についた。おコンは牛肉コロッケをほくほく言いながらかじっている。牛肉コロッケを食べ終わったおコンは、何気なしに

「お礼にこれやる」

 と何やらごそごそと尻尾の中からお守りを出して僕に渡した。

「何でまた?」

「一波のことが心配だからだよ」

 おコンは続ける。

「おバカでお人よしでまたまたそうかと思えば考えすぎる節がある。ほっとけないんだよ」

「そっか。ありがとうな」

「それとな、そのお守りはな……」

「うんうん」

「何かを叶えるたびに何かを奪っていくものなんよ」

「えっ」

「しかもな、叶える願いが大きいとそれだけお守りが奪っていく代償も大きい。しかも一回きり」

 思わずおコンにお守りを押しつける。

「いらんて。そんな怖いもん」

「いいから持っておきな。大丈夫。一波がこころの底から願った願いにしか反応しないからさ」

「そうか。そりゃまあ、じゃあ持っておくか」

「でもさ、こころの底からの願いって何なんだろう」

 おコンはふっと笑うと、

「そんときになったら分かるさ」

「そんなもんかねえ」

「はよう帰らないと、店長に叱られるんじゃないの?」

 そうだった。おコンとの会話もそこそこにバス停に急ぐ。

夕焼けが真っ赤に山を染めていた。


 くう、相変わらず食材重い、キャベツが重い!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る