町の伝説

目を覚ますと、もう朝だった。ハックはまだ寝ている。眠たい目を擦りながら机の上にあるパンを手に取るといすに座りかじり始めた。

 たまたま二人とも休みなのでなんかしようということだったが、ハックはこのとおりだった。ケントは、今日何しようと考えていたが、やがてまた眠くなり布団にもぐって二度寝した。


 目覚めてみるともう昼だった。

「いつまで寝てんだよ。寝ぼすけだなあ」

 ハックが笑う。ケントは布団から抜け出た。

「一応朝起きたんだよ」

「寝てたじゃん」

「二度寝した」

「だめじゃん」

 ハックが聞いてくる。

「そういやさ、今日どうする。今日、暇だから町案内してやるよ。ケント、まだ、この町全部、知らねえだろ」

 ハックは出来た目玉焼きをケントと自分の皿に盛り分けた。ふと、ケントは、ハックの手をみた。ぼろぼろだった。

「手、どうしたの?」

 ハックはそれを聞いて自分の手を見た。そして笑って言った。

「たいしたことねえよ」

 それ以上は聞かなかった。いや聞けなかった。

「それよか、町案内どうする?」

「じゃあ、お願い」

「じゃあ、これを食ったらいくか」

 ハックは、椅子に座りパンの上に目玉焼きを乗せて食べ始めた。ケントも目の前の目玉焼きに塩を振って食べ始めた。


  

 この町は端っこから端っこまで歩いて一日位では廻りきれないほどでかい。とてもでかい町である。町の外側は三メートル近い壁で囲まれている。だからポイントだけ見せてもらった。ハックが見習いとして働いている工場も見せてもらった。樽を作っているのだ。ハック曰く、最近やっと物になるものが初めてできたそうだ。胸ポケットから出して何かを見せてくれた。鳥みたいである。

「これは?」

「余った木の破片をもらって作ったんだぜ」

「鳥だよね?」

「そうさ、鷹だよ」

「へええ、すごいじゃん。迫力あるわ」

 実際そうなのだ。太陽に照らされた大鷹を見るとほれぼれしてしまう。 ハックは照れ笑いしていた。

「いつかケントにも作ってやるよ」

「頼んだよ」

「まかせとけ。すごいのを作ってみせる」

 ハックは工場を見上げた。工場を見上げているハックがカッコ良く見えた。


 次に訪れたのが、なんと町の中心部にある古びた人工の泉だった。中央には杖を振り上げたおじいさんと何人もの人々が剣を高く振り上げている彫像があり、そこから水が噴出している。泉の脇には石碑が建っていて花が供えられていた。石碑にはなにやら書いてあった。ハックが「読んでみ」っていうので読むと大体次の事が書かれていた。

「ルートムを襲う悪夢。ここに彫られし英雄たちが守ったり。英雄百二十七人に誓う。われら生き残れし者は町の精霊と共にこの町を守り抜くことを」

 ハックに聞く。

「この町で怖い事でも起こったの?」

ハックは、石碑に一礼してから答えた。

「昔々、この町を襲った軍隊がいたらしいのよ。でも、御先祖様たちが、命を投げ出してこの町を守ったっていうらしいよ。この町に伝わる伝説だよ。俺は、若いからかも知んないから伝説ってあまり信じないけど、ここにくると心が澄み渡って不思議な気持ちになるんだよな」

 ハックの顔を見るといつになく真剣だ。

「でもよ。もし、伝説が本当だったとしたら、命を投げ出してこの町を救ってくれた英雄様に感謝したい。だってさ、こうして工場の仲間らやケントとも出会えたんだしな」

ハックは、石碑に深々とおじぎする。ケントもつられておじぎする。


 最後に訪れたのは、ハックがケントを助けた場所である。町から一キロ位離れた人気のない草原である。ここから森までは一キロと離れていない。二人はそこに座った。

「ここでな、ケントが倒れているのを見つけたんだ」

「なんでハックはここに来たの」

「ここの草原が風に吹かれてさわさわいっているのを聞くと安心するんだ」

 ハックが照れ笑いしながら話す。しばらく二人は、草原のさざめきに耳を傾けていた。さわさわと耳に心地よい。

「そういやさ、ハックは将来樽職人になるの?」

「まあな。まだ下っ端だけど、今の仕事は俺に合ってるし」

「ハックってすごいね。しっかりした夢があって」

「ケントは音楽家だろ?」

「分かんない……」

 音楽をずっとしてきたが、音楽が本当に好きなのかは、分らなかった。すると、ハックが、吹き飛ばすように言った。

「何言ってんだ。俺らまだ、ガキだぜ。これからだ」

 ハックは大笑いした。

「俺、今日臭い言葉連発したな」

 くっせえっていいながら立ち上がった。

「さあ、もう戻らないと、夕食ありつけなくなんぞ」

 二人は立ちあがって歩き始めた。二人の背後には、夕日に照らされた草原がさわさわと波打って揺れていた。

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