第6話 森・町の秘密の垣間見

 三日なんてあっという間だった。気が付くとすでに日曜日の夜九時半だった。ハックは疲れてすでに眠っている。そっと家を出る。今夜は満月だった。静寂な町全体を青白い光で覆っている。幻想的で奇麗だったが何か出そうで怖かった。小走りで目的地へと走る。目的地のフーオ先生の家に着いたが、まだ誰も来てなかった。心の中で思わず叫んだ。(冗談じゃないよ。)そのまま十五分位すると、皆集まり始めた。ただ、約束の十時になってもマークがなかなか来なかった。それでも、十時十分過ぎに来た。

「悪い。悪い。中々抜け出せなくて」

 マークが詫びた。

「そういや、皆どうやって家を出てきているの」

 素朴な質問する。

「二階からロープを垂らして抜け出してきたりとまあいろいろだな」

「勇気あるねえ」

「まあね」

 マークは誇らしげに笑った。

「それじゃあ、行こうぜ」

 ロンが言うと、みんなは森に向けて歩きだした。


 森を近くで見てみるとはっきりいって怖かった。暗闇の中ざわざわと音を立てて揺れる木々。時々烏が寝ぼけて、カーと鳴く声。すべてが怖かった。

「ほんとにいくの?」

 セイルが情けない声を出した。ロンは自前の松明を灯す。

「祟られないかな」

 ケントは呟く。足もがくがくと揺れている。

「ここまで来たら、いくっきゃないでしょ」

 ロンはみんなを森の中へ促した。

 夜の森は最悪だった。一人だったら絶対こんな所にこなかっただろう。歩き続けて三十分した頃だろうか。かすかに笛の音が聞こえてきた。一同は浮き足だったが、ロンは笛の音のする方に歩んで行った。

「もう帰ろうよ。絶対祟られるって」

 セイルがロンの服を掴んだ。マークの顔も蒼白だった。

「帰るんだったら一人で帰ればいいじゃん」

 ロンは先に進む。一同も、しかたなく先に進んだ。

 笛の音はその間にもどんどん大きくなっていった。そのうち大きな広場に出た。広場の中央には笛を吹いている主がいた。二十代くらいの青年。青い髪に、ゆったりした服を着ていた。顔はとても青白かった。月の光の青白さと相まってとても怖かった。

「出た~」

 ロンは叫ぶと、もと来た道に逃げ飛んで行ってしまった。続いて、セイル、マークと続いた。ケントも同じく逃げようとしたが全く体が動かなかった。

「待って」

 ケントはかすれ声で叫んだが、みんな逃げて行ってしまった。無理に体を動かそうとしたら、転んでしまった。その間にも青年は笛を吹き続ける。どのくらいたったであろうか。いつの間にか音楽は終わり、青年はケントの方へ話しかけてきた。

「初めまして、迷い人さん。私はニーフという名のものです。以後お見知りおきを」

 ニーフさんは、笑いかけてきた。

「怖がる必要は無いですよ。危害は加えません。安心しなさい。それにしても……」

 ニーフさんは、改めてケントを見つめた。

「迷い人は五十年ぶり。いかなる迷いをかかえてきたのかな」

「迷いって?」

 ケントは、やっとの事で声を振り絞った。

「心の底の底にある迷い。迷いのせいで、今迄大切なものを失ってきました。そなたの大切なものとは?」

「大切なものって?」

「分かりませんか。じっくり考えるが良いでしょう。答えはすぐそこにあります」

 ケントは勇気を振り絞って声を出す。ガチョウが絞め殺されるときに出す声みたいであったが。

「迷い人とは何ですか」

 ニーフさんは真顔になって答える。

「迷い人とは、憂い、迷いを抱え、その事から逃げ出し、大切なものをいつも無くし続けているものの事です」

 ニーフさんは消える。呆気にとられていると。今度は、すぐとなりから声が聞こえてきた。

「迷い人よ。今、すべて悟る必要はないです。必要になったら私を尋ねなさい。その時、迷い人よ、道を開拓する手助けをするでしょう。」

ケントの目がなにかで撫でられた。そうされるや否や、ケントは眠り込んでしまった。

         

 目が覚めると、そこは家だった。なにがなんだか分らなかった。(え~と、森にいたんじゃなかったっけ)しばらくぼおっとしていると、ガチャッとドアが開く音がして、ハックが、帰ってきた。

「ケント、起きたか。もう夕方だぞ」

「えっ。もう」

「食糧調達いくぞ。」

「ちょっと待って! 僕、ずっとここに寝てた?」

「何寝ぼけてんだ! ずっと寝てたよ。もういいだろ。いくぞ」

ハックは、ケントに例の釣り道具を渡す。ドアをばたんと開け出て行った。


 翌朝、フーオ先生の学校に行くと真っ先にロン達の所に行った。

「ロン、昨日僕を置いて逃げちゃうなんてひどいよ」

ケントは口を尖らした。

「わりい、わりい。つい条件反射で! 一応、森の入り口で待ってたんだぜ」ロンは、弁解した。セイルも、手を合せて謝っている。マークも。しかし、ケントの怒りは収まらない。その時、きゅるるると腹が鳴る声が聞こえた。セイルだった。

「門限破って……そのばつで飯食わせてくれなくて」

その言い方になんとなく切なさがこもっていた。その哀愁漂う言葉に吹き出す。セイルも、マークも、ロンも笑う。一件落着。と、ここで、ケントは、昨日からの疑問をぶつけてみた。

「ところでさ~昨日のあの青い髪の人だれだったんだろう?」

 ケント以外の人は、みんな、首を傾げた。

「誰、それ?」

「ほらっ? 森にいた人、ニーフって言ってた」

「分かんねえ」

 ケントとロン達の会話は一向にかみ合わない。よくよく話を聞いてみると、昨日の出来事はもう、靄がかかったようで思い出せないようだ。う~ん首を捻るような出来事ばかりだ。

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