グレンとあやかしの森と

 フーオ先生は弟子を十八人とっていた。みんな十代の若者だった。ロンに教室につれていってもらい一人一人紹介してもらった。たちまちケントは、みんなに囲まれた。

「見ない顔だねえ~。どっから来たの? どのくらいキャリアあるの?」

 とまあ沢山聞かれた。ここの人たちと話すことによっていろんなことが分かった。この学校は弟子から一切お金を取らない事。その代わりにフーオ先生の家の大掃除を手伝わされること。そしてみんなはバイトで生活費をまかなっていること。フーオ先生も他に家庭教師などのバイトをして食いつないでいること。

「十八人もいたら掃除すぐに終わっちゃうんじゃない」

 ケントが質問する。

「そーでもないぞ。この間なんか、屋根裏片づけてたらデッカイ蜘蛛が死んでたんだぜ。すんごい気持ち悪かった」

 ぽちゃりめのセイルという少年が言った。

「そりゃ、お前いくじがないだけだって」

 と細めで赤い髪のマークという少年が茶化した。一同は笑いに包まれた。

「ところでフーオ先生の所では誰が一番うまいの?」

 ケントは、素朴な質問をした。

「そうさな~。グレンだろうな~。うまさだけだったら」

 セイルは、意味深な発言をした。

「天才よ! 天才! だけどな~練習来ないのよ。そのくせ、コンクールでは、いつも優勝をかっさらう。うらやましい奴だよ」

 こんなしゃべり方をするのは、マークだ。(そうか、グレンか、一度話してみたいな)。グレンという名を心の片隅に留め置いた。

 

 家に帰ると、もうハックは帰っていた。何をするともなしにごろごろしていた。ハックは、ケントを見つけると起き上がった。

「よお~ケント! おかえり~場所分かった?」

「分かった~。」

「フーオ先生っていい先生だろ?」

「ところでさ」

「うん」

 ハックは、釣りざおを用意し始めた。

「グレンっていう人知ってる?」

「なんちゅうかな。一匹オオカミって感じ受けるけど」

「他には?」

 また聞く。

「悪い奴じゃないよ。まあ、これから話す機会があるんだから自分で確かめたらいいじゃん。それよかさあ~」

 ハックは一本の釣りざおを手渡してきた。

「えっ?」

 ケントは困惑した。

「働かざるもの、食うべからず。ってなわけでいくぞ」

 ハックはでかい袋を持って出て行ってしまった。慌てて跡を追いかける。


 釣りをする場所はハックの家から数キロ離れた郊外(ルートムから見て、ケントが倒れていた場所と、反対の方角にある)。ハックは慣れた手つきで仕掛けを作ると仕掛けを川の中に投げ込んだ。ケントも見よう見まねで仕掛けをつくると川の中に投げ込んだ。錘とか、針の大きさなどはハックが選んでくれるから初心者のケントでも安心だ。釣りはいい。時間を忘れられる。川のせせらぎ、魚のジャンプ。見ていて飽きない。数分もしないうちに、ハックは釣り上げた。

「ハヤか。まあまあだな」

ハックは、器用に魚の口から針を外して、魚籠のなかにいれた。

「ここでは何が釣れるの?」

「そうさな。ハヤ、フナ、ウグイ、ニジマスかな」

 またハックは川の中に餌をつけた針をなげいれた。

「それよか……そろそろだぜ。耳をすましてみ」

 しばらく耳を澄ましているとかすかに心地よい音が聞こえてきた。フルートである。だんだん音がはっきりしてきた。高く澄んだ音、周りの川のせせらぎ、木々のザワザワとした音、風の通り抜ける音。それらがフルートの音と調和してとても気持ちがいい。

「いいだろう。この音色が聞きたくていつもここを釣り場にしているんだ。」

 ハックがささやく。演奏は長く続き、気付いた時にはもう日がすっかり暮れてしまっていた。いつの間にか演奏が終わっていた。

「誰が吹いてるの?」

 素朴な質問をする。

「あの音色はこの町の七不思議の一つなんだ。誰が吹くとも無く森の中から音色が聞こえてくるんだ」

「それって、幽霊……?」

 ハックがにやりと笑った。

「だからこの辺は誰も近づかないのさ。考えてみろよ。こんな絶好の釣り場に誰もいないなんておかしいとおもわんか」

 思わず(ひいっ~)って心の叫びをあげた。

「大丈夫だって! もう何年も釣りをしてるけど体ピンピンしてるぜ」

 ハックは、ケントが怖がるのを笑っていたが、しばらくすると飽きたのか立ち上がった。

「いくぞ、魚も捕れたし」

 ハックは、かごを重そうに持ち上げた。いつのまにかこんなに捕ったのだろう。かごに一杯に魚が入っている。二人は(ケントは、びくびくして)この場をあとにした。

 

 町に来るとハックは、家々を回って物々交換しはじめた。どの家でも感じ良くこんなにいいのっていうくらい沢山くれた。卵と魚や、野菜山盛りと魚二匹を交換したり終わる頃には持ってきたでかい袋は満杯だった。最期の一軒は長屋だった。ハックがドアをノックすると大声で叫んだ。

「グレン~いるか!」

(グレン? どっかで、聞いた名前。)ケントは「う~ん」とうなる。ドアがガチャッと開いた。この長屋の住人はのっぽの少年だった。髪はぼさぼさ、シャツ一枚のラフな姿だ。

「ああ、ハックか。いつもありがとな」

 少年は笑う。

「別にいいって」

 ハックは魚を二匹少年に差し入れした。そしてケントに話しかけた。

「こいつは俺の友達のグレン。幼馴染」(ああ、そうだ。思いだした。グレンって名前、フーオ先生の所で、聞いたんだ。)

「ケントです。宜しく。明日からフーオ先生の所に通うんだ」

 それを聞くとグレンは、(へええっ)って顔をした。

「んじゃ、俺のうわさも聞いてるんだ」

「はあ……」

 そう言うしかなかった。しかしグレンは豪快に笑い飛ばした。

「いいたい奴には言わしとけ。ちゃんと結果を残してる」

 そのまま話は進み、小一時間話して、グレン宅を後にした。

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