音楽家のフーオ先生

翌朝起きるとハックはもういなかった。起き上がって周りをみわたすとこの部屋にあるたったひとつの机の上に書き置きとパンが置いてあった。書き置きにはこう書いてあった。


  レン親方の所へもう行くから、おさきに。机の上にパンを置いてく。それと、昨日話した音楽家の家は、教会のとなりっていったら分かる。ちなみに音楽家の名前は、フーオ先生。

                            ハック                            

 最後に手書きの地図が描かれていた。

           

 外に出ると太陽の朝の日差しが気持良かった。ケントはハックの書いてくれた地図を片手に歩きながら町並みなどを見た。木造の古風な家々。ケントの街とそんなにかわりはない。ケントは、町の中心にある公園にたどり着いた。石段にそっと腰掛け、人々を眺めてみる。散歩を楽しむ老人。花を沢山乗せ車を曳いて売るほおかぶりの女の人。野菜を売っている農夫。そして、父親とはしゃぎまわる子供たち。見ていて、心がなごむ。しかし、ふと、父親と子供達が遊ぶ姿を見ていて胸が切なくなった。

 

 フーオ先生という音楽家のうちについたのは、正午過ぎになってしまった。フーオ宅は、案外分かりやすかった。なんせ教会がひときわ大きくまた大通りにあったのですぐ分かった。とりあえず入って見ることにした。

部屋に通されしばらく待つとメガネをかけた優しそうな中年のおじさんが出てきた。白いワイシャツに紺色のズボンを履いている。

「遅くなりました」

 ケントの顔をまじまじと見る。

「初顔だねえ。どこから来たの」

 ケントは今までの事をすべてはなした。フーオ先生は興味深く聞いていたがふとこんな質問をした。

「何で音楽をやりたいと思ったの?」

 とまどったが、やっとの事で口を開く。

「小さい頃から音楽しかしてこなかったから、自分には音楽しかないんです」

 フーオ先生はその言葉を聞いてしばらくだまっていたが口を開いた。

「よろしい。いいでしょう。練習は明日から始めます。十時にきてください。今日はこの家の中を紹介します。少し待っていてください」

フーオ先生は出て行くと、しばらくして一人の少年を連れてきた。

「ロン。新入りです。こちらはケント君。これからいろいろ教えてあげなさい」

 そうしてケントの方を向いて言った。

「ケント君、分からない事は、ロンに聞きなさい。じゃあ後よろしく」

 フーオ先生は、それだけ言うと自室に入って行った。

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