第18話 密談は密室で

パタン.... と音がして扉が閉まり、エマが部屋から遠ざかるのを確認し、扉の鍵をかけるとミーアの瞳が青く光った。 フィアナと二人だけで話す内容は誰かに聞かれるとまずい内容だらけだ。 音声遮断の魔法と、誰か近づいてきたら分かるように探知魔法をすかさずかけたのだ。 


完全に密室になるとフィアナはベットに腰掛け、顔を突っ伏して深いため息をついた。


「なんか濃い1日だったね…」


「本当だねぇ。 まさかいきなり貴族の屋敷に来ちゃうとか思わないよねぇ。」


「でも、考えようによってはラッキーだったのかもしれないなー。」


「? どうして?」


「だって、もともとこのイデルの街を目指してたんだし、領主と一緒に馬車で来れたから街の門もフリーパスだったじゃん?  それに王都からの挙兵の理由を高位貴族であるカーライル候なら知ってる可能性もあるし、 たとえ直接的な理由を知らなくてもさ、もしかしたら思い当ったりするところとかあるかもしれないし、お近づきになれてる今ならそれとなく聞けるかもしれないじゃない?」


「そう聞くとなんだかものすごくついてる気がするねぇ… 普通こういう街とか入るのに身分証とか通行料とか出さないといけないだろうし‥‥  あ、そう言えば…」


「言えば?」


「私達この国の通貨持ってないかも。」


「‥‥‥‥‥」


「‥‥‥‥‥」


「‥‥はぁああああ!! そうじゃん!お金!持って無いじゃん!! 余りにも使う事が無くって通貨って言う概念すら忘れてたよ.... ど… どうしよう…」



村での生活は、ほぼ物々交換などで行われ『世界の引きこもり』とフィアナが揶揄する程、村全体が極力外界との接触をしてこなかった。 それに加えて二人は必要以上に森で生きていく術に長けていたため、お金の存在を忘れていたのだ。



「何かで稼ぐしかないねぇ…」


「そだなぁ… あ、そういえばさ」


「うん」


「さっきお風呂入ってて思ったんだけど、石鹸がさ獣臭くなかった?」


「あ~… うん確かに」


「あれ、多分油脂に獣脂を使ってるんだと思うんだけど、それをオリーブオイルとか香油とか匂いのいいのにして売るとかどうかな?」


「え、でも石鹸作った事ないよ。」


「大丈夫、私趣味で作ったことあるから! まかっかせて!」


「おー… じゃあ材料とか用意しないとねぇ。」


「そこは… お貴族であるカーライル候にお願いしようかなー… なんてね?」


「うーん… 後で聞くだけ聞いてみようか。」


「まあ、侯爵がダメでもえりりんとこ帰って材料集めればなんとかなると思うー」


「エリオラダさんなら自分もほしいって言いそう。」



二人はたった5日離れただけだが、なんだかとってもあの見目麗しいエルフの青年(正確には森の中の家での自由な生活)が懐かしく思えた。



「ふぁ~~あ… なんか落ち着いたら眠くなってきちゃった…」


「トラなんとかさんのおかげで夕べから一睡もしてないしね。 誰か来たら分かるから少し寝ようか。」


「さんせ~~! んじゃおやすみぃ~~!!」


「おやすみなさい。」



・・・・・・・




とっぷりと日が暮れ窓の外を闇が支配し始めた頃、誰かが部屋に近づくのを察知したミーアが目を覚まし、フィアナを揺り起こした。


「フィー起きて。 誰か来るよ。」


「ん~‥‥ なに~?だぁれ?」


「多分エマさんだと思う。 はい、起きて起きて。」



そう言うとミーアはパチンと指を鳴らし、音声遮断魔法を解除した。 



   コンコンッ



「失礼いたします。」


扉がノックされ、かちゃりと扉を開けると、先ほどの侍女エマが入ってきた。 すると真っ暗だった部屋に灯りが灯る。


「お休みの所申し訳ございません。 お食事のご用意ができましたので当主よりお二方をお呼びするようにと仰せつかってまいりました。 ご案内いたしますが …その前に御髪を失礼いたします。」


すっと二人の側に寄ると、エマはささっと寝ている間に崩れた髪とドレス皺を直してくれた。 さすができる侍女である。  身支度が整うとエマは二人を促し、食堂へと案内する。 廊下は先ほどの部屋と同じく、手前から程よい灯りで照らされていく。 先ほどからソレが気になっていたフィアナはエマに聞いてみることにした。


「あの、エマさん。 この灯りって… 蝋燭… ではないですよね?」


「お二方は見るのが初めてでしたか。 これは精霊石を使っております。」


「精霊石?」


「ええ、大変稀少な物なので市井には流通しておりませんが… 夜、人がいるのを感じると、自動で灯りが灯るようになっております。」


(人感センサー付きルームライト…だと…? なにそれ、21世紀の日本かっ! どんなオーバーテクノロジーよ!)


「それだと寝室などには使えませんよね?」


「寝室の灯りに関しては任意で点けれるようにスイッチがございます。」


(あれ、待って? なんか本当に文明度が結構高いの?!)


「な… なるほど…」



あまりのカルチャーショックに引き攣りそうになる顔を堪えながらミーアを見ると、やはり困ったような驚いたような複雑な顔をしていた。



二人してこの世界の文明度に驚きを隠せず、惚けた顔で歩いているとエマが声をかけてきた。



「こちらが食堂でございます。 ご当主他ご家族の方はすでにお席についておりますので、フィアナ様ミーア様がお入りになられましたらお食事をお持ちいたします。」



観音開きの木製の重厚な扉を開けると、長い長方形のテーブルが置かれ、一番奥にカーライル侯爵、右側奥からデボラ夫人、その隣にリィラが座っていた。


「やあ、その様子だとゆっくりしていただけたようだね。 どうぞこちらに座って。」




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