第17話 そこは煌びやかな空間だった

カーライル侯爵邸は広大な敷地に建っていた。 侯爵に促されるように外に踏み出した二人は辺りを見渡し、絶句する。 


(なにこれ城じゃん! でかすぎ!)


玄関の方に歩み出せば、直立不動で整列していた大勢の使用人達が一斉に首を垂れた。 その中でもロマンスグレーの髪を綺麗に撫で付け、落ち着いた雰囲気の一人だけタイプの違う燕尾服を纏った男性がこちらにやってきて、盗賊事件の事の顛末を事前に知らされていたのか感極まった顔で挨拶する。


「おかえりなさいませ旦那様、奥様、リィラお嬢様、ご無事で… 本当に… ようございました…っ。」


「ただいまアレクサンド。 私たちがこうして無事に戻れたのはこちらのフィアナさんとミーアさんのおかげだよ。 お二人の客室の用意を頼む。」


「かしこまりました。」


「フィアナさんミーアさん、お疲れだろう? まずは風呂にでも入っていただいて、ゆっくりなさるといい。 エマお二人をご案内して。」


「かしこまりました旦那様。 フィアナ様ミーア様どうぞこちらへ。」


所謂メイドさんの着る裾の長いお仕着せを着て、髪もきっちりとまとめ上げ、黒ぶち眼鏡をかけた『THEできる侍女』と言った感じのエマに案内されて邸内を歩く。 外観もそうであったが、内装も前世の日本の迎賓館のネオ・バロック様式によく似ていた。 ふかふかの赤い絨毯の上を歩いているそれだけで、なんだか自分達が貴族のお姫様になったような気がする。(着ているものは動きやすい平民服だが)ミーアは安定のポーカーフェイスだが、 あまりの豪華さにフィアナはついポカンと口を開けたままキョロキョロ辺りを見渡していた。 


大きな窓から綺麗に造園された中庭を見渡せる、明るく長い廊下を進んでいくと、何処からか聞いた事のある、懐かしいような音が途切れ途切れ聞こえてきた。


♪~‥‥ ♪♪~~‥‥ 


「あの… エマさんこの音は?」


「ピアノでございますね。」


((ピアノってこの世界にもあるんだ…))


思わずフィアナとミーアは顔を見合わせると、ミーアの口元がむにゅむにゅと綻んだのをフィアナは見逃さなかった。


(うぷぷ… 嬉しさが隠しきれてないよミーア)


「どなたかお弾きになるんですか?」


「以前は大奥様が嗜まれておりましたが、今はダンスレッスンの伴奏に使うくらいでございますね。 ちょうど今日は調律師が来ておりまして、それで聞こえてきたのでございましょう。」


「ダンスレッスン…」(やっぱり貴族だもんねぇ~… 夜会とか舞踏会とかあるよねぇ~)


廊下の突き当りまで行くと5人の侍女が控えていた。


「こちらが浴場でございます。」


浴場内に案内されると、一人に付3人の侍女が二人の衣服を鮮やかに脱がせ、体の隅々まで洗い始めた。(この間二人は何が起こったのか理解できずにフリーズしていた) 思考の凍結からいち早く解凍したミーアが顔を真っ赤にしながら 「だ、大丈夫です!! 自分達でできますから!!」 と抗議するも時すでに遅し。 エマの眼鏡がキラリと光った気がしたのはきっと気のせいじゃない。


「大丈夫です、私共に万事お任せくださいませ。」


そう言うが早いか、あっと言う間に洗い上げ、二人は浴槽に放り込まれた。 浴槽に浸かってしばらくしてから漸く思考が戻ってきたフィアナは世にも情けない顔をしていた。


「あ、ありのまま今起こった事を話すぜ… 気が付いたら裸に剥かれてお風呂に放り込まれていた… 何を言っているのか分からねーと思うが、おれも何をされたのか分からねえ…」


「フィー落ち着いて。 早くこっちに戻ってきて。」


「はっ…」


「それにしてもすごかったねぇ。 人に体を洗われたなんて前世含めて赤ちゃんの時以来だよ」


「だねぇ… それにしても… (石鹸が…)」


「え?」


「あ、いや… それにしても広いねぇ… 高級スパか、セレブ御用達スポーツジムのお風呂みたいに豪華だし」


豪華なお風呂を心行くまで堪能しのぼせる前に上がると、監視してたかのようにいいタイミングで先ほどのジジョーズがやってきて綺麗に拭き上げられ、髪も香油を付けて丹念に梳かれる。 二人は遠い目をして諦めた。


「はは… もうなんかなすがままだね…」


「そうね…」



それぞれデザインの違うシュミーズドレスを着せられ、髪も軽く結い上げられた。


「お二人共お美しいので私共もやりがいがありますわ。」



そうエマが言うと他の5人も笑顔で頷く。 前世はさておき、今世は生まれてからずっと森の中を駆けずり回って、ほぼ野生児な生活をしてきたので、美しいとか言われてもぴんとこない二人だった。


「あはは… ありがとうございます…」



身だしなみを整えられたフィアナとミーアは、再びエマの先導で客室まで案内された。 客室は2階の東側で日当たりと景観が素晴らしくいい、ベッドルームとリビングルームの二間続きの部屋だった。 もちろん(?)ベットはクイーンサイズで天蓋付きだ。 天蓋付きベットは乙女の夢である。



「では、お食事のご用意ができましたらご案内に参りますので、それまでごゆるりと。」




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