第16話 馬車の中にて

フィアナとミーアはカーライル家の馬車に同乗することになった。 乗り込む前、護衛騎士リーダーに「信用しきれず、すまなかった。 リィラ様を助けてくれてありがとう。」と謝罪された。


「いえ、私があなた達の立場ならやはり信用はできず、あなた方と同じようにしたと思います。 いろいろと失礼な事をしてこちらこそごめんなさい。」


フィアナがそう返すとリーダーはくしゃっと顔をゆがめ、泣きそうになっていた。


(まあ、うん、こんな小娘にのされたら立場ないよねぇー ごめんよー)


 二人が馬車に乗り込むとすでにカーライル一家が乗り込んでいた。 進行方向に向かって前向きにカーライル一家が、後ろ向きにフィアナとミーアが座った。


「すみません、失礼します。」


「わー、馬車とか乗るの初めて! 荷馬車には乗りますけど。」


「どうぞ、ああ、頭をぶつけないように気を付けて。」


御者(当初の御者は盗賊に斬られてしまったので護衛騎士の一人が御者役をやるらしい)に合図して馬車が動き出すと、改めてと自己紹介をされた。


「この度は本当に助かりました。 改めて紹介させてください。 私はカーライル領を預かっているクラウ・カーライル。 こちらが妻のデボラ、そしてお二人に助けていただいた娘のリィラです。」


ここであれっ? と思ったフィアナはミーアと小声で話をする。


《 ん、カーライル領を預かっている? …って領主さま?! 》


《 そういえばエリオラダさんがカーライル領の領主は侯爵って言ってたね… 》


《 侯爵って… 上級貴族じゃないっ! やばい、不敬罪で処罰されたらどうしようっ! 》


「あ… あの… 申しわけありません! 私達辺境の村から出て来たばかりの田舎者で‥‥ こ…侯爵様です…よね? ご無礼をどうかお許しください!」


「ええ、国王陛下より侯爵位を賜っております。 ですがあなた方は私共の命の恩人だ。 どうぞ、今まで通り楽にしてほしい。」


「は、はひっ(やば、かんだ)」


「リィラ、おまえからもお礼をいいなさい。」


カーライル侯爵に促されたリィラは、泣きそうな顔してデボラ夫人のお腹に顔を隠した。


「まあ、リィラいけませんよ。」


そうデボラ夫人が嗜めるものの、リィラはむずがって顔を上げようとしなかった。


(あちゃー、完全に怖がられてるよ… どうするかな.... あ、そうだ!)


《 ねね、ミーア。紙持ってない? 》

《 紙? あるけど… 何に使うの? 》

《 ちょっと…ね。 1枚頂戴? 》


ミーアから紙を受け取ると、フィアナはその紙を折り始めた。 


「? それは一体なにをしてるんです?」


「これはですね‥‥ っとできた。 リィラちゃ…様、はい。」


フィアナは手の中の折りたたんだままの『折り鶴』をにっこり笑ってリィラに差し出した。


「私達のの物で、鳥を模したものです。」


「鳥…」


「ええ、こことここをもって広げると… ね?」


翼の部分を左右に広げて見せると、リィラの顔がぱああっと明るくなった。


(うきゃああ! やばい!天使だ!天使がいる!!)


「これは..... 本当に... 鳥に見えるな... 」


「故郷では願いを込めてこれを折るんです。 願い事が鳥の様に羽ばたき、天に届きますようにと。」


キラキラとした笑顔でじーっと折り鶴を見ていたリィラは、一瞬はっ!としてからおずおずとフィアナに向き合った。


「お姉さん、あの、助けてくれて…ありがとうございます… それと、この鳥さんも…」


「ふふ、どういたしまして! 気に入っていただけて良かったです!」



やっとリィラが二人… 主に怖がっていたフィアナに馴染んだ頃、馬車は城壁の門をくぐり、衛兵が侯爵に向かって敬礼する。


「おかえりなさいませ侯爵様、ご無事でなによりです!」


先ほど起こった盗賊の件は、先んじて護衛の一人が早馬で衛兵に事の次第を簡潔に知らせていた。


「ああ、危なかったけどこのお二人のおかげでなんとかね… この街道の先と森の中に盗賊を捕らえてあるから、あとで回収に行ってくれるよう頼む。 森の中の場所は後で詰め所に報告しよう。」


「はっ! かしこまりました!」


「お待たせしました、このまま私の屋敷にご案内します。」



車窓から見えるイデルの街はとても活気があり、人々の表情も明るい。 カーライル領は領主の評判がいいとエリオラダが言っていたが、それはあながち間違いではないのかもしれない。


市場を通り抜けた先の緩やかな坂道を登っていくと、綺麗な生垣に囲まれた大きな屋敷が見えた。 あれが恐らくカーライル侯爵邸だろう。 


ほどなくして馬車が停まると、先に侯爵家一家が降り、まだ中にいたフィアナとミーアの二人にカーライル候が手を差し出し、下車を促した。


「我邸にようこそ」









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