第15話 閑話
この話は読まなくても本編には影響がありません。
※転生前の主人公二人がゲームでダンジョンに行くお話です。
※この話の前にも1話投稿済み、2話連続で投稿しています。
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VRMMORPG『One Another Dimension -幽国のオラトリオ-』は中世ヨーロッパをモチーフとした、シームレスで広大な世界のゲームである。 自由度が高く、望めば一国の王にも、反対に奴隷にもなれてしまう。(国王になる為には大変な努力が必要ではある。要は平民から成り上がらなくてはならない。) レベル制ではなくスキル制でスキルの上限値は100、サブスキルの上限値は70で、戦闘系から生産系、生活系まで数十ものスキルが存在し、そのすべてをサブスキルの上限の70に上げてからがこのゲームのスタートラインに立つと言われている。 例えば剣術スキルを上げる為には100匹自分と同等以上の敵を倒して、上がるスキルは0.001程らしい。
少し前までのゲームは
独身アラサー一人暮らしでサービス業に従事する朝比奈 夏美は、今日も今日とて仕事から帰ると夕飯と入浴を済ませベットに横たわり、VR装置を装着し、OADを起動する。
「セット・ログイン ――――― スタート」
キャラクター選択画面がでて、メインキャラである『ナツミ』を選ぶと、次の瞬間には見慣れたゲーム内のギルドハウスの中にいた。
右手をさっと払い、そのまま握り込むとインターフェースが開いた。 そこからギルドチャットを選ぶとギルドメンバー16人分のモニターが目の前に展開し、ログイン中で取り込み中で無いメンバーが映し出される。(映像を出したくないメンバーは『SOUND ONLY』の表示がされる)
「こんばんーー」
「おっす、あねさーん」
「やほー、こんばんわー」
「ねーねこんばんはー」
「おう、ナツミきたかー。この前頼まれてたヤツ、用意できたぜー」
「うお、せっちゃんマジで!?ありがとう!愛してる!!!」
「ばぁーか、調子いいんだよ。」
ナツミがせっちゃん…セツナに頼んでいたものは、ネームドと呼ばれるその名の通り固有名詞のある討伐が困難なモンスターを出現させるトリガーとなるアイテムで、錬金術と鍛冶のスキルがそれぞれ100無いと作れない入手が割と困難なアイテムである。
「それじゃいよいよネームド狩りやな!! 滾るぜーーー! いつもの通り参加は自由。 ドロップ品はトリガー提供者と製作者を優先で1品選んでもらって、残ったアイテムはくじ引きで恨みっこなしね。 参加したい人きょしゅー! あ、ミアとセツナは強制参加ね。」
ミアは「はーい」と元気に返事をするものの、セツナは「まじかよー、強制とかひどくね?」とちょっと愚痴っぽい。
「まあまあ、ちゃんと1品優先するからさー。 せっちゃんが居てくれると安心感がうんぬん。 ミアもトリガー提供してるから1品優先ね。 セツナとほしいもの被ったら二人で話し合ってねー。 んで、他のメンバーは… 1.2‥‥ 5人ね。挙手ありがとう、もう下げて大丈夫だよ。 それじゃ、私入れて8人で攻略するよーー。 日程は――――――」
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事前に攻略サイトで情報を攫って、ある程度作戦を立てておき、決行当日になった。
場所は『リュドの迷宮』の隠し部屋。 道中の出現モンスターはスライムとブラッドバットとゴブリン、オークとデュラハンにスケルトン。 そして隠し部屋のヌシは『アイホート』クトゥルフ神話に出てくる迷宮にいる神の名前を冠したこのネームドモンスターは、巨大な蜘蛛の姿をしている。
この『リュドの迷宮』は5層構造で、隠し部屋は丁度真ん中の3層にある。 ただし行き方がちょっと複雑で、一度最下層に行って転移魔方陣から隠し部屋に飛ばなければならない。
メンバーはナツミ(アタッカー)、ミア(ヒーラー)、セツナ(タンク)、リョウタ(斥候&アタッカー)、ぺーすけ(アタッカー)、マリナ(アタッカー)、カーラ(ヒーラー)、ムームー(タンク)で、盾役とヒーラーがそれぞれ2人、アタッカーが4人の無難なバランス構成だ。
ダンジョン内に入るとまずリョウタが先行して様子を見ながら進む。 意思疎通はパーティーチャットとハンドサインを用いてサクサク進んだ。 1・2層はスライムとブラッドバット、ゴブリンしか出てこないので、危なげなく3層に到着した。
「さってと… ここからちょっと敵が強くなるけど… ネームド戦に備えてなるべく回避していきたいなぁ」
「おっけ… それじゃここは俺がいくわ。リョウタは下がってみんなと一緒に来てくれ。 4層は距離が短いからムームーよろしく。」
セツナがそう言うとミアがプロテクションと回避アップの魔法を付与し、それが終わるとタウントスキルを使って、セツナは道中にいる敵を片っ端から引き寄せ、引き連れていく。
「おらおらおら~~~! まとめてかかってこいや~~! はーっはははは!」
スケルトンや、デュラハン、コウモリ、オークを大量に引き連れて走り去るセツナの後ろを、残りの7人が雑談しながら和気あいあいとついていく。 大変なのはセツナ一人である。
「がんばれ~~!」「セツナかっこいー!」
仲間が楽しそうに囃し立てれば息も切れ切れに返してくる。
「くっそ…! おっ、まっ、えっ、らっ、後で、覚えて、ろよ…!」
そろそろ4層への入り口近くになると、階層終わりに必ずあるセーフティーゾーンにセツナ以外の7人が入る。 息を殺して待っているとセツナが少し手前で自らについたステータスアップの強化を切り、装備も脱いでパンいちになり、そのまま殺されるのをじっと待つ。 雑魚モンスターの敵視値は敵視対象者が死ぬと0になり、最初に居た場所に戻っていく。 名付けて「俺の屍を越えていけ作戦」。
全部の雑魚モンスターが初期位置に戻ったのを確認すると、カーラが蘇生魔法で生き返らせる。
「おお、勇者セツナよ! 死んでしまうとは情けない!」
「‥‥カーラ… お前さ、毎回蘇生する度にそれ言わなきゃいけないのかよ。 …まあ、サンキュ。」
「神官だし、やっぱ言っとかないと? みたいな?」
「ほんじゃセツナの装備の修理が終わったら4層いこー」
カーラとセツナのやり取りを華麗にスルーしてナツミが仕切る。
「ナツミ… おまえさあ… もう少し俺を労わ… はあ、まあいいや…」
4層に降りると次はムームーが先ほどのセツナと同じように、敵を引き連れ5層入り口付近で生き返らせてもらう。
「おお、勇者ムームーよ! 以下略。」
「えー、ちょっとカーラ雑すぎでしょー?! 俺っち泣いていい?」
「まあムームーだし。」「そうね、ムームーだしね。」「ムームーなら仕方ない。」
「なんでっ!? 俺っちがなにしたのよーー!」
5層はなるべく敵モンスターにサーチされないように注意して進み、ひっかけた敵モンスターはそのまま転送部屋まで連れて行き、そこで倒した。
「それじゃあ確認ね。 転送したらミアの強化魔法を全員が受けて、それが終わったら『アイホート』を出現させるから、セツナが取ったら戦闘開始ね。 子供が沸いたらセツナとムームーがスイッチ。 ヤバそうな所はセツナがサポートして。 後はみんなミアの指示に従ってね。」
ナツミの言葉に皆が頷き、了承の意を表した。
「それじゃ、行こう」
全員が乗ると魔方陣が淡く光り出し、光の粒になって消え、次の瞬間かなりの広さの部屋に全員が立っていた。
「強化掛けるから集まって。」
ミアがそう言うと全員がミアの周辺に集まる。 プロテクションを3つ重ね掛けして、それぞれに詠唱速度、回避、攻撃速度、体力、魔力、命中のステータスアップの魔法をかけ、インターフェースを開いて『playmaker』モードを起動する。 パーティーメンバーにその都度的確に指示を出す為のそれはサッカー用語に由来する。
トリガ―アイテムを使用する場所には南京錠が浮いていて、その前にナツミが立つと辺りから息をのむ音が聞こえる。 静かに3つのアイテムを重ね合わせると、眩い光が発生し、光が収まると1つの鍵がナツミの手に収まっていた。 ふぅ… と息を吐き出すとナツミは鍵を南京錠に鎖し、ぐりっと右に回転させた。
―――――――― パキィ‥‥‥ン!
金属が割れるような音がして鍵が壊れて消滅した。 そこから紫色のモヤのような煙が発生し、それが徐々に巨大な蜘蛛の形になり、部屋全体が震えるほどの大音量でソレは産声を上げる。
「ギシャアアアアアアア!」
「おら!こっち来やがれ!」
アイホートが出現すると、セツナがすかさずタウントスキルで引き寄せる。
≪ そのまま高火力で1/3までアイホートのHPを減らして。リョウタは
ミアの指示と共にアイホートに赤いターゲットマークが全員の視界に映し出され、リョウタは更に▼のマークと共にDEXと表示される。 エンチャントヒーラーとして位置的に全体を見渡せ、必要な強化と弱体とヒールを即座にかける事ができる事と、何よりミア本人の資質として深い洞察力があり、カンも鋭い為彼女は『
時々吐き出される粘着性の糸に「うぇっ、気持ち悪ぃ!」と言いながらアイホートの敵視を取り続けるセツナ。
そろそろアイホートのHPが1/3に差し掛かりそうな頃、アイホートの腹の部分が若干色が変わった。
≪ 注意!モードチェンジ。 巣に巻き込まれないように! ≫
アイホートがお尻を天井に向けると、糸が吐き出され蜘蛛の巣を形成していく。 巣が完成するとアイホートは飛び上がり、巣の中央に移動した。
≪ 各自毒と糸に注意。 マリナは炎系魔法を中心に。 ぺーすけは炎の精霊を召喚して。 リョウタは魔弾銃でそれぞれ攻撃。 ねーねは… 踊ってて。 ≫
「え、ちょっと! 私踊ってていいの?!」
≪ え、じゃあ見学? ≫
「じゃあみんなを応援してる!」
「俺っちも応援する!」
ナツミは魔拳闘士で、体に魔法属性を纏わせて戦う接近戦を得意としている。 そのため、アイホートに近寄れない現在は飛ばされてくる糸や毒に気を付けて避ける事くらいしかできない。
ムームーは次のモードに備えて待機中である。 暇になってしまった二人は雑談をし始めた。
「そういえばねーさんはなんで魔拳闘士やってるの?」
「ん~~。 体動かすのが面白いから? 魔法も使えるし。」
「へぇ~。 たまに動きにアレンジ入ってるけど、リアルなにかしてたりするん?」
「うん、マーシャルアーツやってる! 最近エクストリームもやり始めたの!」
「マジ?! すげーじゃん! ガチムチ野郎も倒せちゃったりするんじゃないの~?」
二人が楽しそうに話し込んでいると、アイホートの体が少し大きくなり、目が黒から赤に変化した。
≪ 最終モード突入! 各自注意して! アイホートが地上に降りたらムームーはセツナとスイッチ。 ぺーすけは精霊下げてレイス召喚。 子供達に備えて。 ≫
天井から地上にかけて掛かっていた巨大な蜘蛛の巣は、アイホートが地上に降りた瞬間崩れ落ち溶けて消えて行った。 アイホートの腹部が赤く淡く光り出し、そこから子蜘蛛がわらわらと出現してきた。
≪ セツナはマリナの補助。 ぺーすけはレイスで子蜘蛛を
マリナの前にいる5匹づつをセツナがタウントで取ると、マリナがそれを範囲魔法で焼き払う。 新たに出現し続ける子蜘蛛にはレイスの範囲テラー状態にして足止めしていく。 すり抜けて親蜘蛛やヒーラー達に向かう子蜘蛛はリョウタとナツミが取り、とり切れなかったものはミアが
「それにしても… アイホートの攻撃いてぇーー! リアルなら血だらけっしょ、これ!」
「
泣き言をいうムームーに軽く煽りながら癒しをかけるカーラ。 そんなカーラに死角から子蜘蛛が近づいていた。 いち早くリョウタが気が付き、カーラとの間に滑り込み、ニカっと笑う。
「ワイが来たからもう大丈夫やで、安心しーや。」
「一人でいいかっこなんて、させねーよ!」
リョウタの背後からナツミがやってきて、魔闘気を纏わせた足でハイキックをかます。
「あーー! ワイの獲物になにすんねん! 砕翼殺閃刃!!」
「ぶはっ! なにその中二っぽい技名はっ!」
「やめて!二人共アタシの為に争わないでっ!」
≪ ねーねとリョウタはじゃれ合ってないで別れて戦って。 カーラは二人を煽らない。 ≫
「あーもぉ あねさんのせいでミアちゃんに怒られよった。 これでミアちゃんにフラれたらどないしてくれんの!」
「おい、どさくさに紛れてミアを狙うんじゃない! おかーさんは許しませんよ!」
≪ ねーね! リョウタ!! いい加減にしなさいっ! ≫
「「はい、すみませんしたーーー!」」
二人がじゃれてる間に子蜘蛛は数を減らし(主にマリナとぺーすけが頑張った)残りは後2匹とアイホートのみ。 2匹はセツナが敵視を取り、アタッカー全員で攻撃、撃破した。
≪ 後はアイホートだけだから『playmaker』は切るね、ムームーとセツナはスイッチして全員で総攻撃! ≫
ミアとリョウタでアイホートに弱体をかけ、全員でアイホートのHPを削っていく。
「あと少し!」
「ミア、STRとDEXの強化頂戴! 最終奥義いっくよーー!」
ナツミはミアから強化を受けると、全身に魔闘気を纏わせ集中し、両掌に力を込める。
「これで終わりだーーーーー!!!」
ナツミの渾身の一撃でアイホートはその動きを止めて地面に倒れ伏し、その姿が薄く消えていき、アイホートの居た場所には宝箱が出現していた。
「「「「「「「「 やったあああ! 」」」」」」」」
「おつかれーー!」
「やったねーー!」
「アイテム何がでた~?」
宝箱を開けると、中にはレア素材が4つと武器が2つ、防具が2つ入っていた。
「えーと、じゃあミアとセツナ。 まず2人から選んで。」
「私、この『アイホートの顎』もらってもいい?」
「おう、俺はこの『虹粘布』がほしかったからこれもらうな。」
「おっけー、じゃあ顎と粘布以外はクジ引きで決めようー!」
騒がしく(楽しく?)開催されたネームド狩りはくじ引きと言う仁義なき戦いで幕を閉じた。
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フ :そういえばアイホートの宝箱でセツナが取った布。 あれどうしたかなぁ? 売ったのかな?
ミ :なんか自分でアイテム作るって言ってたよ。
フ :あの布って確か女性キャラ用の高額装備の素材だったよね…?
ミ :誰かあげたい人がいるのかも?
フ :ほほ~~。
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