第14話 救出
「娘さんの救出は私たちがやります。」
ミーアが鋭い視線で周りを見渡しそう言い放つと、護衛騎士のリーダー格の男が焦ったようにそれを止めた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。 君らが?二人で? 無理だ、そんなの許可できるわけないだろう!」
「もしかしたらまだ残党がこの辺にいるかもしれません。護衛さんはここでお二人を守っていてほしいのです。 責任をもって娘さんを連れ戻してきますから… 会ったばかりで信用してくれと言っても難しいかもしれませんが、それでもお願いします。任せてください。」
「………だめだ。 君達みたいな少女を危険な目に合わせるわけにいかない。 そう言う荒事は俺たちがやるから、君達はここでおとなしくしていなさい。」
おい、行くぞ!と護衛騎士達が森に入ろうと動いた時、フィアナがその行く手をふさいだ。
「だめよ、ミーアの言う通り私たちが行く。 幼い女の子を攫うなんて…しかも親の見てる前でなんて、許せるわけがない! か弱そうに見えるから行かせないって言うなら…‥ ここで勝負しよう。 どっちが強いか見せてあげるよ。 お・じ・さ・ん?」
そう言うといきなりフィアナは一人の足をかけて転ばせ、その喉元に木の枝を突きつける。 後ろからきた一人がフィアナを捉えようと伸ばした手をかるくいなし、背中に回り後ろ首を手刀で落とす。 左右横から同時に襲ってきた二人には身体強化がかかったままの足を使い、上空にジャンプし、そのまま一回転して後方に飛ぶと、襲ってきた二人は正面からぶつかり合って崩れ落ちた。
「‥‥どお? まだやる? 実力は十分に見せたと思うけど?」
悔しそうに俯く護衛達。 だが、まだ納得できないでいるリーダー格の男が何か言おうとした時、娘の父親が「もういい。」と遮った。
「もういい、このお嬢さん方にお願いしよう。 見た所まだ本気で戦っていないのだろう?」
「ふふん、雇い主さんの方がちゃんとわかってるじゃない。」
「当家の者が失礼した。 私はクラウ・カーライルと言う。 改めてお嬢さん方にお願いしたい。 どうかリィラを助けてほしい。」
「もちろんです。 私はミーア、こちらがフィアナです。 それで、娘さんを攫った賊はどちらに行ったか分かりますか?」
すると護衛騎士は北西の方向を指さす。 ミーアとフィアナが頷き合って指がさされた方向に走りだそうとしたその時、後ろから娘の母親の声がした。
「娘を… リィラをどうか、どうかよろしくお願いします…っ!」
「必ず娘さんを連れ戻してきます。どうか信じて待っていてください。」
二人は安心させるように、にっこり微笑むと森の中に消えて行った。
数十分二人は森を駆けていたが、未だ盗賊どもの行方は分からなかった。 立ち止まりフィアナが腕を組んで考える。
「ん~、どうするかね… こんな時陰陽師みたいに式神飛ばすとか、魔女みたいに使い魔を放つとかできればいいのに…って私らも魔法使いだったわ、使い魔もいないけど。」
あはははんと自嘲気味に笑うフィアナの話を聞いて、ミーアが口に右手を置き、考えるようなそぶりをした。
「使い魔… 使い魔か… 似たような事できるかもしれない。」
「お? どうするの?」
「ほんとはゲームみたいにミニマップが出せて、そこに敵表示とかできれば楽なんだけど… 魔法で知覚範囲を広げて生体反応は分かっても、それを人間と動物や魔物をどう判別していいか分からないし、なら直接”見れば”いいかなって。」
「ほうほう… と言うとドローンみたいな?」
「そう、鳥の体を借りるの。」
ミーアは空を見上げ、ちょうど真上辺りを飛んでいるハヤブサの様な鳥を見つけた。
「『
途端ミーアの目の前に霧状の壁が現れ、そこに上空から森を仰望した映像が映し出された。
「ほーん。さっすがミーアちゃん!」
「前世のプロジェクションマッピングをイメージしてみたんだ。 案外うまくいったねぇ」
「あ、ねえあそこ、あそこじゃない?」
画面中央より右上にぽつんと小屋があり、そこに人影が見えた気がした。
「‥‥‥それっぽいね。 行ってみよう。」
上空から見た小屋にたどり着くと、やはりここが盗賊のアジトだったらしい。二人は見張りに気づかれぬよう音をさせずに木の影から影へと移動する。
「『
小屋を中心に防御結界を張り、その中を睡眠魔法で満たした。 結界内のすべての人が眠った頃に結界を解き、二人は中に踏み込む。 眠りから覚めて仕返しされては困るので、全員をす巻きにし、その上からロープで何重にも結んだ。
「ふう。盗賊はこれでいい… っと」
「ミーア、リィラちゃんは居た?」
「うん、この子だと思う。」
ミーアが指さした隣の部屋に入ると、クラウ・カーライルによく似た面差しの、4~5歳の女の子が両手両足を縛られ簡素なベットの上に寝かされていた。 途中で乱暴に扱われたのか顔や手足が汚れ、傷ついている。
「可哀そうに… 傷までつけられて‥‥ 今治してあげるからね。『
ミーアが手をかざし、治癒魔法をかけると、みるみる何もなかったように傷がふさがった。 と、同時に女の子がゆっくりと目を開ける。
「‥‥‥あ‥‥」
「起きた? ‥‥リィラちゃん、だよね?」
状況が呑み込めていないのか、リィラはぼーっとした顔をして辺りを見渡した後、質問されたことに気が付いたのかぎこちなく頷いた。
「おねえちゃんたち… だれ? おとうさまとおかあさまはどこにいるの…?」
「おねえちゃん達はリィラちゃんを助けにきたの。 もう大丈夫よ、すぐにお父さんとお母さんに合わせてあげるからね。」
フィアナは落ち着かせるように柔らかく微笑んで、リィラの頭をなでる。
「さ、それじゃ行こうか。 リィラちゃんちょっとおんぶするね。」
そう言ってリィラの前に後ろ向きで屈むと、おずおずとリィラが背中に抱き着いた。
「いい?行くよ? ちょっと飛ばすから目つぶって、しっかりつかまってね」
(念のため防御魔法をかけて…と)
「ミーア行こう」「うん」
小屋から出ようとしたその時、扉が開いて別行動をしていた盗賊が戻ってきた。
「なんだぁ、おめえらは? 俺らの仲間はどこだ!?」
「おい、連れて来た子供もいるぞ! てめーらの仕業か!!」
「まあまて、よく見ればこの二人もなかなかじゃねえか。 こいつらも捕まえておけば後で売るなりなんなり… ふひひ。」
「チッ うるせーよ、おっさん達。 そんなに相手してほしかったらしてあげるよ。 その代わり… 無事でいられると思うなよ?」
フィアナは啖呵を切ると、背中におぶっていたリィラに「怖い思いさせてごめんね、すぐ終わらせるからこのお姉ちゃんと待っててね。」と言って、ミーアに預けた。
「さぁて、どっからでもかかっておいで」
ニヤっと不敵に笑うと、手招きして盗賊たちを煽った。
「てめっ‥‥! ふざけやがって!」
襲い掛かってきた一人の顎をつま先で思いっきり蹴り上げ昏倒させ、背後から来た一人は逆立ちして両足で首を挟み、そのまま首の骨を折り、最後の一人は鼻フックで持ち上げ、壁に頭を強打させた。
倒した3人はリィラの視界に入らないように片づけ、フィアナは待たせていた2人の元に戻った。
「ごめんね、もう終わったよ。」
フィアナが眉をハの字にしてへにゃりと笑うと、怖かったのかリィラはそのままミーアの服をぎゅっと握って離さなかった。
「あー、じゃあリィラちゃんはミーアに任せるね。 急いで戻ろう。」
「うん、わかった。」
二人は身体強化をかけ直し、森を駆けぬける。 行きと違い半刻ほどで街道の馬車が停まっているところまで戻ってきた。 ミーアとフィアナが姿を見せるとカーライル夫妻が驚いた顔をし、二人の元に駆け付けて来る。
「リィラ‥‥ リィラ!」「おとうさま!おかあさま! うわぁあん!」
ミーアの背から降ろされると、リィラは泣きながら両親に抱き着いた。
「ああ…リィラ… 怪我はないかい? ああ、良かった…!」
「リィラ、私のリィラ… 無事でよかった… 本当によかった…」
娘の無事を確認し妻に娘を任せるとクラウ・カーライルはミーアとフィアナに向き直り、頭を下げた。
「本当にありがとう… どんなに礼を尽くしても足りないくらい感謝している。」
「いえ、困った時はお互い様です。 娘さんが無事でよかったですね。 それじゃ私たちはこれで失礼します。」
ミーアがそう言うと、二人はカーライル親子から背を向けて歩き出そうとすると、クラウ・カーライルから引き留められた。
「待ってください! ‥‥このままお礼もせず帰すわけにはいかない。 是非我が家においでいただきたい。」
「「えっ…」」
「どうしようか?」「うーん、急いでるわけじゃないし…」
悩んだ末、二人は好意に甘える事にした。
「分かりました。 ではよろしくお願いします。」
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