第13話 もう一人の王子

「ただいま戻りました、陛下。」


ガルレリア城、国王の私室で方膝を付き臣下の礼を取るのは、ケルヴィン第一王子である。 第二王子であるアルフロードや、父である国王と同じ赤い色の髪を襟足で結んだリボンでまとめ、凪いだ湖面の様な深い緑の瞳の顔のパーツは同じ異母兄弟ではあるが、その身から漂う雰囲気はまるで違うものだった。


「早かったな。して、状況はどうなっておる?」


「はい、ソレイラージ東の国は相変わらず景気はいいようです。噂では新たな島国と貿易を開始したとか。 グラシアム北の国は申訳ありません、守りが固く未だ調査中です。 そしてデザーフルー西の国は… こちらは面白い話を聞きました。」


ケルヴィンは片頬を上げ、ニヤリとした。


「どうも、新しい鉱山が見つかったようです。」


「ほう… 何が出るのだ?」


「はい、銅と… もう一つ伝説級の物が。」


「伝説?」


「どの金属よりも軽く、丈夫な”神の銀”と言われる物… ミスリル。」


「なに… それはまことか…?」


「今はまだ確認中ではありますが、恐らく間違いないかと。」


目を見開き、驚きと戸惑いを隠せぬ国王はしばし絶句していた。


「‥‥…そうか… ご苦労であったな。 しばし休むがよい。」


「はっ、ありがとうございます。」


深いため息を吐いて、椅子に深くもたれるように座る国王に一礼し、立ち上がって部屋を出ようとしたケルヴィンは扉の手前で立ち止まった。


、アルフロードはどうしておりますか?」


「あれは何やら企んでおるようだが… 周りが上手く隠しておるようでな… まったく困ったものだ。」



 このガルレリア王国では未だ王位継承者が定まっておらず、第一王子であるケルヴィン派と第二王子であるアルフロード派で別れ対立している。 本来であれば第一子であるケルヴィンが継承権を持つはずであるが、ケルヴィンの母親は伯爵家の出であり側妃であったため、正妃であり侯爵家の出であるアルフロードの母親やその親族、そしてその派閥に属する貴族達によって”待った”がかかった状態なのだ。 勤勉で広い視野を持ち、公平に物を見る事のできる優秀なケルヴィンに対し、アルフロードは激しい対抗心を燃やしていた。父である国王に己を認めさせてやると。


「そう… ですか。」


「なんにせよデザーフルーの件に関しては箝口令をしけ。あれに知れたら何をするかわからん。」


「かしこまりました。 ‥‥では、私はこれで。」








**************************








「ふあぁ~~~あ… あ”~~~~眠い…」


眠い目をこすり、フィアナは大きく伸びをした。 トラビスから距離を取る為、夜通し森を歩いた為に眠くて仕方がないのだ。


「もう少しで街道にでるから、あと半日も歩けば村があるはず。 そこまで頑張ろう。」


「まったく… トラビスストーカーの野郎… 次あったらミーアに関する記憶が無くなるまで殴ってやろうかしら。」


そんな物騒な事をフィアナが言うのと同時に、遠くから馬の嘶いななきが聞こえて来た。


「え、今のなに?!」


「街道の方みたい。 行ってみよう。」



念のため身体強化をかけ、先ほどの音がした方に駆け付けると、一見して大商人か、貴族の乗るような上等な馬車が5~6人の盗賊とおぼしき男たちに襲われているようだ。 護衛役の騎士が応戦していた。 


「助けるよ!」 「分かった。」 


素早く護衛たちに身体強化と身体の線に合わせたプロテクションをかけ、ミーアは馬車の持ち主を探しに行き、フィアナは木の枝を折り、それに強化をかけて盗賊に向かっていった。


「ね~ね~おに~さんたちぃ~~! 私ともあそぼ~~よっ…とぉ!」


瞬時に移動し、後方から盗賊の一人の両足を枝で殴りつけると、めきっと音がして盗賊は崩れ落ちた。 


「なんだてめえはぁああ!!! てめえも死にてえのか!」


そう言いながら剣や斧で振りかぶってくる盗賊をひらひらとかわし「えー、まだ死ぬつもりはないなー」と軽口をたたくフィアナ。 激高した盗賊どもがいい具合にフィアナに向かってきた。


「このっ! ちょこまかとうっとおしい!」と向かってきた男を屈んでかわして、腹に思いっきりフルスイングすれば気を失って倒れ、残りのやつらは足と腕を折り、攻撃を無効化した。


あまりの手際の良さに、護衛騎士が唖然としてフィアナと倒されていく盗賊を見ていた。 


その場にいる盗賊がすべて身動きできなくなってから、初めてフィアナは護衛騎士の方をみた。


「横からしゃしゃり出てごめんね。 護衛さん達ケガはない?」


「あ、ああ… 俺たちは大丈夫… あの…君は?」


「うーん、まあ… 名乗るほどのもんじゃないよ。 それよりあなた達の雇い主さんは大丈夫?」


そう言ってフィアナが辺りを見渡すと、ミーアと馬車の持ち主らしい身なりのいい若い男女がやってきた。 男性の方は顔を蒼白にし、女性の方はなにやら取り乱している。


「リィラ… リィラが…!」


「え、どうしたの? リィラさんて?」


「フィー… この人たちの娘さんが攫われたらしい… 」


「な… 大変じゃない! 助けに行かないと!」


「うん… すみません、護衛の方。 娘さんは私達に任せてください。 もしかしたら残党が近くにいるかもしれないから、あなた方はこの方たちを守っててくださいませんか?」

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