第12話 お菓子の家はありません
「それで、君はここで何を?」
多分、親切で聞いてきてくれてるんだろう。好奇心もあるかもしれない。 それは分からなくはない。 だけど魔法使いである事が知られるとまずいんだけど…できれば関わりたくないのになんだろうこの人は… 遠慮なさすぎじゃない? そう思うが口には出せない二人。 さて、どう誤魔化すか…とミーアは考えた。
「頼まれ物があって、それを届けに行く途中です。」
トラビスは「ふ~ん…」と一瞬考えた後、ひらめいた!とばかりにぱっと顔を輝かせ、ミーアに詰め寄りその肩を両手で掴んだ。
「そうだ! 俺がついてってやるよ! さっき魔物倒してたの見てただろ? 何かあっても守ってやれるし!!」
それを聞いたフィアナの眉間に皺が寄る。 あんたよりミーアのが1000倍はつえーよ! しかもさっき魔物を倒せたのはミーアのおかげだし! そもそもお前… 私を無視すんじゃなああああいっ! と心の中で盛大にツッコミを入れた後、ミーアの肩に乗ったトラビスの両手をガシッと掴み、ていっ!と引きはがした。
「あー、ご親切にドーモ。 でも私達だけで大丈夫ですから。」
(はよどっか行けや)と言う副音声付きでトラビスを切り捨てる。 すると今気が付いたとばかりに
「えーと、あなたは? いつからそこに?」
....なんだと.....? 無視してたんじゃなく、存在すら気づいてなかっただと.... コイツどんだけミーアしか見えてないのよ!? と、引き攣る表情筋を無理やり動かして笑顔を作るフィアナ
「最初からいましたケド。 こう見えて私強いので、何かあってもこの子は私が守りますから、二人だけで大丈夫ですよ。」
「強いって言ってもやっぱり女の子二人って言うのは心もとないだろ? やっぱり俺がついてくよ。」
「あのね…!」と尚も追っ払おうとするフィアナをミーアが手で制した。 えっと驚いたフィアナにミーアはじっと目を見て『任せて』とばかりに頷いて見せる。
「分かりました。ありがとうございますトラビスさん。 よろしくお願いしますね。」
にっこり笑ってそう言うと、トラビスは顔を赤くして「お、おう! 任せてくれよ!」と喜んだ。
悪い人じゃない。 基本的にはいい人なんだろう。 ‥‥‥ただ、自分の実力が分からず、良く分からない自信があるのと、ミーアが気になりすぎてるのを除けば。
「ところで、君達の名前聞いてなかったな。なんていうの?」
本当の名前をそのまま言うのが躊躇ためらわれて、どうせ相手には分からないだろうと
「ヘンゼル(フィアナ)とグレーテル(ミーア)ですー。」
暴走気味の妹と、触れるものすべてを凍らせる姉の名前でもよかったかもしれない。と思いつつ、しれっと前世で超有名な童話の主人公兄妹の名前を出す。
嬉しそうに何度も「そうか… グレーテルか…」と小声で呟くトラビスが怖い。 ストーカーだめ、絶対。
「トラビスさんは、何か用事があったんじゃないんですか?」
「いや… 俺はその、駆け出しの冒険者で、依頼のあった薬草を探してたら道に迷っちゃって」
リアル”てへぺろ☆”をやるトラビスに(迷ってたんかい!)と心の中で突っ込まずにいられない。 この短時間で芸人並に心の中でツッコミを入れてる気がするフィアナだった。
「ちなみにどんな薬草を探してるんです?」
「『月光花』だよ。これがさぁ見つからなくてさ…」
『月光花』とはこの大森林の割と深い場所にあり、当然魔物も生息している。とても駆け出しの冒険者が単騎で採取できるものではない。 ちなみにハイポーションの材料である。
「ええっ!? 『月光花』…って、結構森の奥に入らないと生えてないのに? 一人で行くつもりだったんですか!?」
まじかよ…とんだチャレンジャーだぜ!と驚きを隠せないフィアナ。
「あれ、ヘンリーは見た事あるの?」
「”ヘンゼル”です。私は薬師の娘なので…」
「すごいな! じゃあさ、見つけたら教えてくれよ!」
「そ… う、うん、じゃあ見つけたら教えます…(もう何も言うまい)」
「そろそろ夜も遅いですし、交代で寝ませんか? 私が最初に見張りするので、二人は寝てください。」
精神的に疲れ果てたフィアナを気遣って、ミーアが交代で睡眠をとる事を提案した。
「ありがとうグレーテル。 それじゃそうさせてもらうよ。 次は俺がやるから起こしてくれ。」
そう言うとトラビスは鞄から毛布を出し、包まって眠った。 フィアナは寝た…ふりをしてミーアを見た。
ミーアはフィアナににっこり笑うと『
「これで8時間は目が覚めないはず。」
「なるほどね… あとは結界張っておけばいいね。」
『
「それじゃ、行くかぁ」
「さよなら、トラビスさん。 できればもう会いたくないけど…ってこれフラグかしら…」
「あははっ! ま、大丈夫でしょ!」
そう言って二人は立ち去った。
眠りこけるトラビスの横には「月光花」がひっそりと置いてあったのだった。
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