第11話 不本意な再会

「開けてて小川も近いし、ここがいいね。 今日はここで野営しよっか。」


そう言ってフィアナはさっそく周辺に防御結界を張った。 魔法で土を盛って竈を作り、周辺で集めて来た小枝をセットして、あとは食材の処理だ。 移動中に捕った鳥は首を落として、逆さにして腰につるしながら歩いてきたから、そろそろ血抜きが終わってるはず。 羽をむしって内蔵を取り出し、各パーツに肉を切り分ける。この作業はミーアがグロが苦手なため、フィアナの担当だ。 切り分けられた肉に持ってきた塩コショウをすり込み、スライスしたニンニクとローズマリーを入れたオリーブオイルで漬け込んでしばらく放置。 待ってる間にとミーアが楽器を取り出した。


「あれ、それって…ライアー? どうしたの?それ。」


ライアーとは竪琴のことで、半音階に弦が張ってあり、弦の上で指を滑らせるだけでも透明感のある美しい音色の出る楽器だ。 


「エリオラダさんが持っていて、私が音楽やるって分かったら譲ってくれたの。」

「まじか… 前世で買ったら4~50万、安くても20万はするのに… えりりんったらイケメンかっ!! あ、イケメンだった!」

「自分は今使ってないから、使ってくれる人が持ってた方がいいって。」

「ほほ~… じゃあさ、さっそく何か弾いてみてよ!」

「うん」


ミーアはライアーを手に取り、前世の女性シンガーが歌う冬の曲を奏でだした。 


♪♪♪~~~♪~~♪~~~


「あ~…このバラードめっちゃ好き… 冬の終わりの雪の降る日、恋人同士の思いが更に深くなるって感じだよねぇ… ライアーの音色もほんと綺麗で癒される… 」

「この世界にない曲だから、フィーくらいしか聞かせれる人いないけどね。 こっちの世界の音楽も聴いてみたいなぁ。」

「そういや、私らの一族は世界の引きこもりだからねぇ。 街に行ったら聞けるかな? クラブみたいなのあればいいんだけどねぇ… 」

「この世界なら演奏会とか舞踏会とか演劇とか、貴族っぽい人が嗜んでるイメージ」

「あーー、なんかわかるわー。 私達みたいな庶民には縁がなさそうだよねー」



そんな雑談をしているうちに下ごしらえが終わり、手づくりの竈に魔法で火をつけ、フライパンに付け込んでいた鶏肉を乗せ焼き始めた。焼きはミーアが担当。


   ジュワワワワァ~~~ッ


「ん~~、いい匂い。そんじゃ私はパンとチーズ切り分けておくね。」


出来た料理を皿に盛りつけ、二人そろって”ぱんっ!”と手を合わせ「いただきまーす!」と言って食べ始める。


しばらく料理に舌鼓を打っていると、どこからかすんすん… と言う音と、ごんっ...ごんっ... と何かが結界にぶつかる音が聞こえてきた。 一体何事かとフィアナとミーアが音のする方を見て… 絶句した。『なぜコイツがここにいるのか』と。


「えっと... 何してるんです?」

「‥‥‥!!? はっ! えっ!? あの時の妖精!!」

「(なんや妖精って)…お会いするのは初めてだと思うんですけど?」

「あ…いや… っ…あれ…なんだこれ、壁みたいなのがあって先に進めない?!」


ばんばん!と見えない結界を叩く男を見て、フィアナとミーアはお互いに顔を見合わせ「はぁ~~~~っ」と深いため息をついた。


「…しょうがないか、ほっとくわけにいかないし」「‥‥そうね。」


そう言うとフィアナが指をパチンと鳴らして結界を解いた。 すると結界が解けた弾みで男は地面に顔面から突っ込み見事に顔面(主に鼻)を強打したらしい。


「‥‥っつ~~~~! いっ…てぇ…!」


男は鼻を押さえて立ち上がった次の瞬間、ミーアに駆け寄った。 あまりの勢いにさすがのミーアも引き気味になる。


「き…君! さっき俺を見てたよね!? あの、俺はトラビス!」

「ひっ?!」


キラキラした目でミーアを見るこのトラビスと言う男は”烏の濡れ羽色の”…と言うのか、つややかな黒髪に切れ長のルビーの様な赤い瞳、引き締まった精悍な顔立ちの有り体に言えばイケメン…ではあるのだけれど… 二人は同時にこう思った


(( なんだろう、この残念臭は )) と。


「そ、それでトラビスさん、一体なんの御用でしょう?」


胡乱な目でミーアが訊ねると、悪びれる事もなく、あははと笑ってトラビスは答えた。


「いやぁ~… 実は道に迷っててさ、腹もへったな~って思ってたら、何処からかいい匂いがして… 気が付いたらここに居たんだよね。 また会えるかなぁーって思ってた君にも会えたし、なんか俺ってツイてない?!」

「はぁ…」


気の無い返事をするミーアの、手元にあるお皿をじっと見つめ…トラビスはゴクリと喉を鳴らす。


「それ…」

「?」

「もし… まだ余ってたら… その、もらってもいいだろうか…?」

「一羽しか〆てないからそんなに残ってないけど… それでもいいなら…」

「本当に?!うおおおお!ありがとう!!」


ミーアは(しぶしぶ)残っていた肉を焼いてパンと一緒に差し出すと、トラビスはそれを奪うように受け取り、一口食べて「旨い…」と言った後は無言でかきこんだ。


「‥‥っはぁ… ほんと旨かった… ありがとう。」


頭を下げお礼を言うトラビスに、さっさとどこかに行ってほしい二人は別れの挨拶をしようとして―――――


「いえいえ、それじゃ気を「それで君はここで何を?」」


―――――― 失敗した。




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