第10話 気持ちの向かう先

――――― あれから何日経った? …多分一週間くらいは経った気がする。 とフィアナとミーアは思う。


 エリオラダの家で料理や掃除、洗濯、食材集めなど… おいおい使用人かよって言う日々を送っていた。まったく、何がどうしてこうなった? たしか事の起こりはエリオラダが二人の作った食事をえらく気に入ったからだ。 おかしい…私達は王都を目指してるんじゃなかったか?  情報収集しなくていいのか?と、そう思うのだが、お風呂もベットもあるこの快適な環境が若干二人を堕落させていた。


「ミーア、私このままじゃダメな気がするんだ。」

「奇遇だねぇ、フィー。 私もそう思ってたとこ。」

「よし、ちょっとえりりんに言ってくる。」

「え、えりりん…?」



 エリオラダは居間で植物の世話をしていた。 魔法を使い状態をチェックしていき、弱った草花には『治癒キュア』を使い癒していく。 この一連の作業はこの地に赴任して以来の日課になっていた。

すべての草花の様子を見終え、そろそろ休憩しようかと思っていたところにフィアナがやってきた。


「えりりん!!ちょっと話がある!」

「…ねえフィアナ、その”えりりん”と言うのはもしかして私の事?」

「だって、エリオラダって言いにくいし、えりりんのが親しみやすくていいと思わない?」


「えりりん…」とぶつぶつ呟くエリオラダを、フィアナはまったく意に介していなかった。


「あのね、私とミーアはなんで私達の村が襲われたか調べて、魔法使いが未だに危険な状態ならその原因を排除したいの。その為に王都に行こうと思ってるんだ。 …っていつまでぶつぶつ言ってるの。」


「ふう… 王都…王都ね… いきなり王都に行かなくても、その手前に大きな街があるから、まずはそこで情報収集してみたら? あそこの領主…カーライル侯爵だったかな。いい領主だって噂だよ。街の治安もいいみたいだし、ついでに色々と普通の人の生活みてきたら?」

「おお… なるほど、それだっ! ありがとう、えりりん!!」

「はは… いえいえ。」(えりりん定着だな…)


苦笑しつつ軽く手を振るエリオラダに見送られ、思い立ったらすぐ行動のフィアナはすぐにミーアの元に戻り、先ほどの話を聞かせ、キラキラした目でこう言った。


「…って事で、王都じゃなく手前の街にいこう!」






*****************




「「それじゃ、行ってきまーーす!」」

「いってらっしゃい。 帰って来たらおいしい料理期待してるよ~。」



(さあ、あの二人がこれから出会うモノをどう生かしていくか…楽しみだね)



エリオラダに見送られ、二人はカーライル領の都市イデルを目指した。イデルは徒歩で5日ほどの距離にあるが、二人は急ぐこともなく、のんびりと野営の為の狩りをしつつ森を進んでいた。


「ふー、今日も肉祭りだねぇ… てかさミーア、そろそろアレ食べたくない?」

「アレ?」

「アレだよアレ、和食! しょうゆの香り… 味噌のコク… 白米の甘味… ああん、よだれが…!」

「和食かぁ… できれば食べたいけどこの世界に醤油はまだなさそう。 ん~…まあ和食は分かんないけど、今度行く街で、もしかしたらスパイスとかならありそうじゃない? カレーなら作れるかもね。」

「カレー!!! いい! 食べたいっ!!! この際米が無ければナンでもパンでもいい!」

「もしスパイスが手に入ったら、帰ったらエリオラダさんにも作ってあげようか。」

「いいねっ。 カレー以外にもなんか食材になりそうなの探そうよ。 それでこの世界に食の革命を起こすのだ! やばい、おらわくわくすっぞ!」

「…知識チートは…やりすぎると注目されて後で困る事になるよ?」

「くっ… 確かに…」


二人(主にフィアナ)がまだ見ぬイデルの街食材に思いを馳せていると、何かが戦っているような気配に気が付いた。 気配のする方に行ってみると、黒髪に赤目の、フィアナより少し年上に見える男が、大きな犬のような魔物3匹に囲まれていた。 


「くっ…そ…! このぉ…!」


明らかに使い慣れていなさそうな大剣を振り回し、近寄られないように威嚇しているが、魔物はだんだんとその間合いを詰めてきている。


「「「グルルルル…」」」



「あれ…さ、ちょっとまずいんじゃない…?」

「うん…まずいね… あの人、剣に振り回されてるし…」


二人が少し離れた木の影から様子を見ていると、魔物の様子が変わり、遠吠えのような叫びをあげた。



―――― ウォオオウウウウウ!!! ――――



「やばい、多分あれ仲間呼んだわ。私そっち見てくるから、ミーアはあの人を頼んだ!」

「分かった、任せて。『身体強化フィジカルブースト』『防御結界プロテクション』『捕縛ヴィーテバインド』」


男がそれと気が付かぬうちに周りに見えない壁ができ、身体機能が強化され、魔物達の体に蔓が絡まり、その動きを封じている。 


「あ、あれ… なんか気のせいか体軽ぃーな…? 今なら行けるか…! とぉりゃぁあああ!!」


構えた自身の身長とさほど長さの変わらない大剣が、先ほどまでと違い明らかに軽く、扱いやすくなった。 諦めて死を覚悟していた気持ちに希望の火が灯る。


魔物に向かい剣を振ると、瞬く間に倒れていく。


「…一匹ッ」 ザシュッ! 「二匹ッ…」 ザンッ!!ブシャッ! 「さん…匹…ッ!… これで最後ッだっ!」 ザシュッ!!!



「はぁ…はぁ…くっ…は… やった… た… 助かったぁ…」


複数の魔物に囲まれ緊張していたのと、かつてないほどの動きで敵を殲滅できた喜びと安堵とで、男はその場で倒れ込み、大の字で寝ころんだ。


「はっ… 俺生きてるよ… ははは…」


はぁ…と息を吐いて周りを見渡すと、木の影でこっちを見ている少女に気が付いた。 


(いつからあそこに人が… いや、それより…なんて可愛い子なんだ…)


ダークブロンドの柔らかそうなゆるくウエーブした髪、アーモンド形の大きな瞳、ぷっくりとした形のいい唇… まるで森の妖精のような可憐な姿にくぎ付けになってしまった。 

しかし、目が合った途端少女はどこかへ行ってしまった。 追いかけて声をかけたいのに、どうにも体の力ががぬけていて動けない。


(くう… 声かけたかったぁ… また、会えるかなぁ…)




男が敵を無事殲滅したのを見届けたミーアはフィアナと合流した。


「フィー、そっちはもう大丈夫?」

「うん、やっぱり仲間を呼んでたらしくて5~6匹こっちに近づいて来てた。 片づけたから多分もう大丈夫だと思う。 それで、あの男の人はどうだった?」 

「できるだけ魔法に気が付かれないように、結界と身体強化だけかけて、魔物はバインドしておいたから危なげなく倒してたよ。 …だけど、ちょっと姿見られちゃったかも」

「そっかぁ… まあ、もう会う事もないだろうし気にしなくても大丈夫じゃない?」

「そう…だね。」

「ま、気を取り直して野営地探そうぜ!」



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