第9話 告白(カミングアウト)

「しょ… 正体とは…?」


魔法使いの一族である事はもう知られているし、正体と言われてもなんの事やらわからない二人。一体何のことかと尋ねてみれば


「君達から感じられる力… いや違うな… そう、魂の色がね、他の人と違うんだよ。 それってどういう事かなーって」

「ええーっと…それは魔法使いだからって事…ではない? …ですよね?」

「もちろん、違うよ。 普通の人にも、魔法使いにも、エルフにも君達と同じような魂の人は今迄見た事がない。」


相変わらずにこにこと笑顔(しかし目は笑っていない)を崩さずに、ぐいぐいくるエリオラダに二人は顔を引き攣らせる。


『これはあの事言わないと引かなそうね…』と考えたフィアナは腹をくくり、ミーアに(言うね)とアイコンタクトを送るとミーアが頷いた。


「えっと… 信じられなくても、とりあえず聞いてほしいんですが… 実は私達前世の記憶があるんです。」

「前世? それは生まれてくる前の記憶って事かい? 二人とも?」

「ええ、私たちは生まれる前、この世界とは違う、『地球』と呼ばれる世界の『日本』と言う国に住んで居ました。そこでは私達二人は友人同士だったんだけど、事故があって、その時一緒に死んじゃったんです。」

「『チキュウ』…『ニホン』… ああ、そういえばさっき『ニホンノココロ』とか言ってたな。 何の事かと思ったけど、そのことかい?」


(このヤロウ… お風呂の会話聞いていやがった…! はっ!…まさか覗きも…)


思わずチベットスナギツネになる二人。そんな二人の視線に「おや?」と気づいて、面白そうに否定するエリオラダ。


「ああ、もしかして私が君達の入浴を覗いてたとでも思ったの? あはははっ、さすがにやらないよ。会話は聞かせてもらったけどね。」


真偽はどうあれ、どうせもう言っても仕方ないと諦めた二人は、盛大な溜息を吐くと話の続きを始めた。


「はぁ~~… まあそれで、『地球』ではこの世界のような魔法は存在しません。」

「へえ。と言う事は、この世界の普通の人と同じような生活だったのかな?」

「ええと、魔法は無いんですけど、『科学』でこの世界より遥かに文明は進んでいましたね。」

「『カガク』?」

「原子、分子、化学反応、物理法則などなど… ええーと…ミーアまかせた!」


途中で考える事を放棄して(めんどくさくなったとも言う)ミーアに丸投げするフィアナ。


「…科学とは世の理ことわりです。科学を知る事は森羅万象を知る事。極めれば魔法と同等…いえ、それ以上の事ができます。ですが魔法とは似て非なるモノです。」

「なるほどね… そんな世界に君達は住んでいたんだね。 …もしかしたら精霊に呼ばれたかな?」

「精霊に…?」

「そう。私は見たことがないけど、異なる世界から来た、稀人まれびとの話は私の国で聞いたことがある。 精霊がきまぐれに呼ぶんだそうだ。 君達は魂だけこちらに呼ばれたんじゃないかな。」


精霊に呼ばれた…その言葉に心当たりのある二人は「ああ、なるほど…」と頷いた。


「例えそうであったとしても、前世での私達は人生を終えてますし、未練が無いわけではないけど、今は仕方がないと割り切っています。」


「そうか…」とエリオラダが言ったところで、ぐうううぅうう~~~~っと盛大にお腹が鳴る音が聞こえた。


「…ぶっはっ! あははっ! そうか、おなかが減ったか!」


笑い転げるエリオラダに、真っ赤な顔で俯くフィアナ。


「ううぅ… スミマセン…」(くっ… 恥ずかしすぎる!!)

「分かった、食事にしようか。何か作るよ。」

「あ、それなら私たちが作ってもいいですか?」

「君たちが? いいけど作れるのかい?」

「ええ、こう見えて得意なんですよ。私達。」


そう言いながら腕まくりし、キッチンへ行く二人。 食材を確認して作るものを考える。


「何がある~?」とフィアナ。

「えーと… キャベツ、玉ねぎ、小麦粉、卵、ニンジン、ジャガイモ、牛乳…あとパンがあるかな?」

「ふむう…さっき狩ったイノシシっぽいやつの肉、あれミンチにしてロールキャベツのシチューにしよう。」

「いいねぇ。じゃあそれにしよう。皮むきと玉ねぎ切っておくね。」

「ありがとーっ、それじゃ私は豚ミンチでロールキャベツを作ろうかな。」


そう言えばコンソメがないな…と、代わりに鳥ガラでスープを取って代用。


パンをおろし金でおろして牛乳に浸し、ミンチ肉、ナツメグ、玉ねぎのみじん切り、卵を入れ、塩コショウをしてこねてタネを作り、芯をくりぬいたキャベツを湯がいて柔らかくなった葉を剥いてタネをまいてロールキャベツを作る。


鍋にバターを入れ、玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジンを炒める。


小麦粉を入れて炒めたら鳥ガラスープと牛乳を入れて煮立たせ、ロールキャベツを入れて煮込み、仕上げにバターひとかけと白ワインを入れて塩コショウで味を整えて出来上がり。


あとはサラダとパンを用意して準備は万端。


「エリオラダさん、できましたよ~」そう言って二人でテーブルに運ぶ。 エリオラダは見たことが無い料理に興味津々な様子。


「ありがとう… 初めてみるけど…これはなに?スープ?」

「前世の料理でシチューと言います。今回はキャベツでひき肉を巻いた物を入れてみました。」

「とりあえず、食べましょう! おなか空いたし!」


(うん、おいしい! コンソメじゃないから深みのある、あの味じゃないけど…まあまあいけるね!)


懐かしい味に思わず笑みがこぼれながら食べるフィアナ。 ミーアも嬉しそうに食べている。


一方エリオラダは一口食べると、無言でスプーンを口に運び始めた。


((何も言わないけど、おいしくないんだろうか?)) 


「あの~… もしかして口に合わなかったですか?」

「‥‥うまい…」

「えっ?」

「旨いよ!… 初めてだ…こんな旨いの食べたの…!」

「えっと… それは良かったです…?」


突然立ち上がり、二人の手を掴んでぶんぶん振るエリオラダに動揺を隠せない。


「よし、決めた。 二人共しばらくここに居なよ。」


そう言ってエリオラダはにっこりと笑った。




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