第8話 第一村人はエルフでした

「おまえ達…何者だ。ここでなにをしている?」


いきなり背後からかけられた言葉に、二人が驚き ”ばっ!” と振り向くと、そこには…


銀糸のような長い髪、透き通った海のような青い瞳、長く尖った耳、中性的な面差しの超絶美形なこの青年は…まさか… 全ファンタジー好きが狂喜乱舞する(大げさ)という、あの.....



「「 エっ…エルフぅううう!!? 」」


「む... 」


思いがけない事を言われたのか、いぶかしがるようなエルフの青年。


「おまえ達… まさか… のか…?」

「ええ?」


判るも何も見たままじゃないの?と何を言われてるか分からない2人は「どういう事?」「さあ…」とささやき合っていると、 突然合点がいったのか、エルフが「なるほど…そうか。」とニヤリとした。


「??」 フィアナとミーアが顔を見合わせ首をかしげる。


「確認だが、きみ達この家がいるんだろう?」

「え? ええ… それが何か…」

「分かった、それじゃ中に入って。」

「えっ… いいんですか?」

「さっきは堂々と入ろうとしてたのに、今更遠慮するの?」


くすりと笑って家に二人を招き入れる、二人は呼び名が『きみ達』に変わって若干馴れ馴れしくなったのにも気づかず、バツの悪い顔をしながら「お邪魔します…」と恐る恐る中に入った。

家の中は外から見るより広々としていて、1階は明るい吹き抜けになっている。

そして何より目の前に飛び込んでくるのは、まるで前世の植物園のようなたくさんの植物だ。


「ふぉおお!なにこれすごい…」

「すごい… 家の中なのに森の中みたい…」


二人はきゃあきゃあと部屋の中を見渡していると、突然すんすんと鼻を鳴らす音が聞こえる。


「きみ達、とりあえず風呂に入っておいでよ… すっごく臭いから。」


いい笑顔で若い女性に言うには少々配慮の足りないセリフを吐くと、二人の肩をぽんと叩く。


はっと気が付くと、二人の目の前には石造りの5人はゆうに入れる浴槽があり、なみなみとお湯が張られ、その中にはプルメリアのような小花が浮いていて、とてもいい匂いがした。


「わぁーお… なんだかすごく失礼な事言われた気がするけど… これみたら全部吹き飛んだわ。」

「まあ、あれだけ返り血あびたり、森の中走り回ってたりだので、確かに臭いしねぇ。」

「それになにより…」「うん」


「「お風呂は日本人(前世)のココロ!」」


フィオナがふと横を見ると木の実が桶いっぱいに置いてあるのが見えた。


「あ、ねえこれってもしかして、ムクロジじゃない?」

「ムクロジって何? この実の事?」

「うん、そうそう。別名ソープナッツって言うの。この世界にもあるんだね。」

「へえ~… どうやって使うの?」

「えーとね…タオルあるかな…」


辺りを見渡すと、出入り口らしき場所のそばに着替えとタオルがおいてあった。 フィアナはそれを手に取り、ムクロジの実を数個包んで桶に貯めたお湯につける。「これをこうやって…」と言いながら実の入ったタオルをお湯の中でもみこむと、だんだんと白い泡が立ってきた。


「わ、なにこれすごいねぇ!」

「そうだろう、そうだろう! これで体や髪を洗うんだよ~。」


ドヤ顔でミーアに実演してみせるフィアナ。 


久しぶりのお風呂と、湯桶で体を拭くだけじゃない、きちんと洗浄できる事に二人のテンションは上がりっぱなしだ。 


「はぁ~‥‥ ここは天国だねぇ…」

「本当だねぇ、エルフさんに感謝しないと。」


と、頭の上にタオルを乗せて二人はお風呂を堪能するのであった。



「「はぁ~~… いい湯だねぇ…」」




**************




お風呂から上がり、用意されていた簡素な木綿のローブを着て居間に戻ると、エルフの青年が待っていた。


「あの… お風呂ありがとうございます! すっごく気持ちよかったです!」

「そう、風呂は喜んでもらえたみたいだね。とりあえず、座って?」


にこにこしながら二人に着席を促し、自身も二人の目の前に座った。 


「さて、まだ名前を名乗ってなかったね。 私はエリオラダ。 君たちの言う様にエルフだよ。」

「私はフィアナです。こっちはミーア。」

「そう、よろしくね?フィアナにミーア。」


そう言ってふわっと笑うエリオラダ。


(うっ…イケメンの破壊力ぱねえ… 心なしか周りにキラキラエフェクトが見えるよ…)


「君たちは… 魔法使いの一族だろう?」

「「えっ…?」」


なんで判ったんだろう、魔法使ったりしてないよね…と二人で顔を見合わす。


「なんで判ったのか分からないって顔してるね。 それじゃ、まず第一に」と言って人差し指を立て、1を示す。 「この家が見え、私をエルフと言ったからさ。 私は自分自身と、この家に認識阻害の魔法をかけてあるんだよ。なら私は普通の人間に、この家は森が続いてるように見えるはずなんだ。」


「認識阻害… そんな魔法が…」

「おや、使った事無いかい? 便利だよ、人の世で生きていくにはね。」


「そして第二に」そう言って指を2本立てる。「私が転移魔法で風呂に飛ばしても驚かなかったろう? 知らない人がやられたらまず驚いて混乱するか、恐怖で固まるかのどちらかだからね。」


「え、ええ… 確かに私達は魔法使いの一族の者です。あの… 私達一族の事、ご存じなんですか?」

「もちろん、知ってるよ。今の村長はウイゲルだったよね。」

「父さんの事も…」


そこでミーアは、はっと気が付いた。ウイゲルを知ってるというこのエルフの青年から、自分たちがあの暗殺者もどきの事や、自分たちの死亡を偽装して失踪してる事などが父や村人に知られるかもしれない。それは非常にまずい。


「あの… お世話になっててこんなことお願いするのは気が引けるんですが… 私たちの事は見なかったことにしてほしいんです。」

「それは何故? 何かあったの?」


実は…と、突然村が大勢の兵士に襲われたこと、村を捨てて新しい土地へ移住すること、つけられていたから対処したことなどを、なるべく簡潔にマイルドにエリオラダに伝えた。


「分かった。君たちが生きていて、これからやろうとしていることを黙っていてほしいんだね?」

「はい、その通りです。」


エリオラダは右手を口に当て、しばし考えているようなそぶりをした。


「そっか… 分かった。ウイゲルに会う事があっても君達の事は黙っておいてあげるよ。」


それを聞いて安堵するミーアとフィオナに「ただし」と言葉を被せて来た。


を教えてくれたらね。」とニヤリと笑った。


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