「死にたい」と呟いた私は、やっぱり聞かれたくないという防御本能にさらされた

仕事中に公園のトイレに立ち寄った。

駐車場には数多くの社用車が止まっていた。

この時間、みんなが休憩をしていた。

私も社用車を運転して、ここまで来た。

常に1人でいるから、頭の中は1回きりの人生を棒に振った苦しみでいっぱいだ。


生涯、この世に会話の相手とメールの相手が1人もいない人間の運命とは何か?


何十年間、数秒おきに、そんな自問自答が繰り返されている。

1度も出会えないまま、この世を去るという確信を持ったときから、私の人生は壊れている。

それからは惰性で転がされているだけ……。

ただ、生きるためだけに生きている。

死という目的以外は何も存在しない。

これほどまでの無念を抱えたまま仕事をするのは、ツラいとか、苦しいとか、そんな言葉では言い表せない。


「死にたい……」


最近は、周りに気にも留めず、言うようになった。

もう誰に聞かれようが関係なかった。


私は男性トイレの中に入り、壁に付いている大型ストール小便器の前に立って小便をしていた。

ここには他に、大便用の個室2つと掃除道具入れがあった。


「死にたい……」

 

なんで、私だけが、これほどまでに誰とも繋がれないのか?

生涯、誰とも出会えない運命と人生とは何か?

家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なし、デート経験もセックス経験もなし……。

何もできずに時間だけが流れていき、何もできずに人生の時間を終えた。

自殺衝動と殺人衝動を抑えるのは容易ではない。

同じ1回きりの人生……。


「死にたい……」


そのときだった。

洋式の便器が設置されている個室から、トイレットペーパーを引っ張る音が聞こえた。

誰かが個室の中にいた!


ああ……、誰かに聞かれたか……。


一瞬、別にいいや……と思ったけど、日本人は、恵まれた環境でヌクヌクと生きてきた被害妄想者と、不幸の背比べをして意地でも勝とうとしたがるクソガキしかいない。

こいつが個室から出てきたとき、私の顔を興味深く見つめ、不敵な笑みを浮かべるのは目に見えている。

やっぱりこの姿を見られたくない。

私は急いで小便を済ませ、サッサと外に出た。

そして、足音を殺して、急いで車に戻り、そいつがトイレから出てくる前に、あっという間に姿をくらませた。

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