券売窓口から入場ゲートの中へと消えていく人生の流れを見つめて

ここは昔からある、それなりに規模の大きい遊園地だ。

私は、だだっ広い駐車場の一角に車を止めていた。

今日は、ゴールデンウィークの真っ只中……。

雲一つない快晴で、新緑の香りが辺りを支配していた。

まだ開園したばかりで車の数は少ないが、昼になれば全て埋まるだろう。

私は入園せずに、ただ、駐車場にいるだけ……。

ここから、券売窓口と入場ゲートを眺めている。


日本人は自分さえ良ければ他人がどうなろうが知ったこっちゃない民族だ。

恵まれた環境でヌクヌクと生きてきた被害妄想者と、不幸の背比べをして意地でも勝とうとしたがるクソガキしかいない。

だから、生涯を独りで生き抜いた私の理解者なんて、この国にはいない……。

この世に会話の相手とメールの相手が1人もいない状況では、1人暮らしの部屋の中に閉じこもっているのがセオリーだけど、私のように牢屋と路上を行ったり来たりした経験があって、30年以上も、そういう状況が続いている人間は、たまに、人の輪で人間として存在したい……と思えるときがある。

まるで、小さな水槽に中にいる金魚の目線で、人間(人間社会)を見に来たという感じだ。


恋する人たちは……、今まで何千何万と、私の目の前を通り過ぎた。

30年以上、ほぼ毎日のように……。

私がその世界に居たことはない。

あいつらから見れば、私は、努力・我慢・行動・ポジティブ・前向き・プラス思考・諦めない・強い……を怠った愚かな奴という認識なのだろう。

だが、命を懸けて、それを実行に移しても、そこには届かない……という現実を、あいつらが知ることはない。

『人間の力でどうすることもできない』という現実は、そういう運命のもとに生まれ、そういう立場に立たないとわからない。


ああ……、笑顔とともに、恵まれた環境に生まれ育ち、出会える運命のもとに生まれた奴らが、入場ゲートに吸い込まれていく。

恋する2人……。

小さな子供を持つ親子2世代……。

小さな子供を持つ親子3世代……。


私は小さい頃でさえ、こういう所に来たことがないから、どの立場も経験できなかったということになる。

残りの人生で、それを経験することも無いだろう。

転落事故以来、私は重い障害者なので、あの中にはタダ(ここは障害者の等級次第で無料……)で入れるけど、私が来れるのはこの場所まで……。

これ以上はムリ……。

運命的にあの輪の中には入れないので、この場所でそういう空気に触れていたい……というのが、私の人間社会における距離感なのだろう。


私も、入場ゲートの中に入れる人間でありたかった。

あの当事者になりたかった。

あれはきっと、世代をまたにかけたルーティンなのだろう。

あれを実行している大人たちは、自分が子供の頃にも、自分を愛してくれる大人たちに手を繋がれ、あのゲートをくぐっているはずだ。

自分が子供の頃に味わった幸せを、今度は自分の子供に与えてあげようという思考だろう。

私は、育児放棄と虐待を食らったので、それができない。

残虐な殺人願望で埋まっている私は、笑顔の仮面を被って、世間をごまかすことしかできない。

作った自分で居続けるのは、簡単ではない。

頭ではわかっていても、とても続かない。

薬を使って性格整形したから、余計にわかるんだ。

あれは、人生の途中から急にできるようにはならないってね。


私が運転席から眺めているのは、券売窓口から入場ゲートの中へと消えていく、恋する2人の一挙手一投足……、小さな子供を持つ親子2世代の一挙手一投足……、小さな子供を持つ親子3世代の一挙手一投足……。

あれは手に入らない、絶対にね……。

人生とは何か?

運命とは何か?

人間とは何か?

日本人とは何か?

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