スペースデブリ

人類は地球で暮らしている。

地球の歴史に比べたら、人類の歴史は極めて短い。

一人一人の人間の視点に置き換えると、命なんて、一瞬でしかない。

人類の歴史は、命を繋いで作ってきた。


私は命のバトンを繋ぐことができなかった。

なぜなら、家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えたからだ。

どうすることもできなかった。

私は、あれと一緒だ……。

スペースデブリとね。

無限に広がる暗い宇宙を、ただ、孤独に漂っただけ……。


宇宙から見ると、大気圏の向こう側に、人間たちの営みを感じることができる。

「私も地球に入れてくれ」

そう願った。

ただ、そこに行くには大気圏を突破しなければならない。

大気圏への突入は、角度が深すぎると熱で燃え尽きてしまう。

逆に、浅すぎると、大気の層に弾かれて楕円軌道を漂うデブリと化す。


私の人生は、最後まで、どうにもならなかった。

結婚や子供なんて、もはや、次元が違う話だった。


私は大気圏に弾かれてしまった。

回収は不可能……。

永遠に気づかれることはない。

たとえ、決死の突入を図って燃え尽きていたとしても、同様に、気づかれることはなかった。

まぁ、死ぬ分だけ、楽にはなるけど……。


ああ……。

私の存在は何だったのか?

本物のスペースデブリと違って、私という人間は、しばらくしたら死ぬ。

失った人生に対する無念を噛みしめ、ただ、漂いながら、その日を待つしかない。

私は死ぬまで、誰もいない世界で漂い続ける。

スペースデブリとしてね。

そして……。

死んだあとも、漂い続ける。

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