誘拐未遂?

あれは何だったのか?


いまでも鮮明に覚えている。

小学5年生か6年生のときの話……。

学校が終わって、一旦、家に帰ったあと、今度は、ある目的地に向かって1人で歩いていた。


バスに乗るため、バス停にいた。

そこには私以外、誰もいなかった。

バスを待っていると、1台の乗用車が私の目の前に止まった……。

知らないおじさんだった。

なぜかその人は、私の名前、住所、それに今からバスに乗ってどこに向かうのかを全て把握していた。

「両親の知り合いだ。乗りなよ、送っていってあげる」

そう言われた。

当時、学校では壮絶ないじめ、家では虐待という日々……。

人が怖くて、気が弱くて、ノーとは言えなかった。

言われるがままに、後部座席に乗った。

バックミラー越しに見えた、中年男の目つきで、自分は誘拐されたんだと直感でわかった。

ドアに寄り、ロックを開け、ドアのレバーに手をかける。

ナイフや銃を出されたり、脅しや恫喝があったら、アクション映画のワンシーンみたいに、すぐに飛び降りるつもりだった。

20分くらい乗っていただろうか。

目的地のバス停が見えた。

通り過ぎた。

一向に減速する気配もない。

「あの……、止まらないんだったら、飛び降りますよ」

この一言で車は停止した。

私は何事も無かったかのように、車から降りた。

この道は交通量が多い……、誘拐は無理と判断したのだろう。

まぁ、本当に誘拐する気なら、車に乗った時点でどうにでもできた気もするけど……。

あの男は、大きなミステリーだった。


いったい誰だったのか?

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