エレベーターのガラスに映る悪魔

以前、大きなマンションに住んでいた。

もちろん、天涯孤独なので一人暮らしだ。

住み始めてから数年後にエレベーターが設置された。

通常、エレベーター内から外の景色は見えない。

だけど、ここに設置されたエレベーターは外の景色が見えた。

なぜなら、開閉面だけ、東京タワーみたいに展望用の仕様になっていたから……。


あるとき……、私は1階から乗った。

他には誰もいなかった。

扉が閉まる瞬間、大学生と思われる女性が乗ってきた。

私は、すでに4階のボタンを押していた。

女性はチラッとボタンを見ただけで押さなかった。

このとき、この女が『同じ階の住人』だとわかった。

同時に、プレッシャーを感じた。


エレベーターが上昇する。

私が奥で、女性が扉の前に立っていた。

内部は狭いので、かなりの至近距離だ。

私は、目の前にあるサラサラのロングヘアーを見る。

その隙間から、うなじも見る。

そのあと、舐めまわすように全身を見る。

頭の中では、この女を立ちバックで強姦している。

階をまたぐ度に、光と暗闇が交互する。

暗闇になるとき、そんな私の顔がガラスに映し出される。

映っているのはわかっている。

それを見られる可能性があるのもわかっている。

もし、ガラスを見たら、そこで目が合う可能性があることもわかっている。


私は、家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えた。

もう壊れている。

ゴミ屋敷なんて、まだかわいい方……。

大声で奇声を発したり、「殺してやる」を連発したり、大音量でAV流したり、包丁や彫刻刀を使って身体をぶっ刺しながら絶叫したり……。

まあ、普通の住人ではない。

同じ階で降りるということは、この女性が隣の住人という可能性がある。


もし、絶叫の主が、私であるとわかってしまったら、どうしようか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る