虚無感(定年退職がないリアル終身雇用の現場で思う)

男だけの職場に虚無感が漂う。

私もそこそこの年齢だけど、ここでは下から数えた方が早い。

誰もやりたがらない最下層の仕事をしている。

女なんかいるわけがない。

外国人もいない。

ここは刑務所の運命共同体という雰囲気に近い。

70代後半が生活のために普通に働いている。


今日は虚無感が広がっている。

リアル終身雇用(定年退職がない職場)の現場では、永遠の別れが突然やってくる。

別れとは、死だ。

定年退職の場合、その後の人生のことは残された従業員は知る由もない。

まぁ、卒業という感じだろう。

ここでは、人生の終わりを目の当たりにする。

また一人、いなくなった。

生活のために働いている人が多いので、何か身体に異変が起きても、入院する人はほとんどいない。

『連絡が取れないので自宅まで様子を見に行ったら、倒れていて、身体が冷たくなっていた』

そういうパターンが多い。

今回もそう。

つい数日前まで普通に会話をしていたのに……。

なんと言うか……、独り身の男の死は儚い。

衝撃というよりも、虚無感が広がる。

今回は年齢が近かったので、余計に虚無感が広がっている。

同居人がいれば、そういう結果にはならなかった可能性がある。

残念ながら、これがリアル終身雇用の現実だ。


いったい何のために生きたのだろう……、何のために存在したのだろう……。

いろいろと考えさせられる。

過去に良い思い出があれば、まだ救われるのだろうけど……。

こういう生活をしている時点で、そんなにたくさんあるとは思えない。

今回は、喪主が兄になっていたので、家族とは繋がっていたと思われる。

あまり立ち入った話はしていないので、よくわからない。

突然の死去の一報には、毎回、驚かされる。

ただ、次の瞬間から、何事もなかったかのように、日々の業務がいつも通りに進んでいく。

時間は淡々と過ぎていく。

職場に広がる虚無感も、いずれは無くなるだろう。

そして、数か月後には、私たちの記憶からも消えてしまうのだろう。

私は、家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えている。

思い出なんか何も無い。

無念と絶望は計り知れない。

私の死も、一瞬だけ、吹き上がり、淡々と消えていくのだろう。

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