下水道管路から星空を見る

私は座っている。 

ここは地下の下水道管路の中だ。

直系2メートルほどの円筒が横方向と上に伸びていた。

満水でなければ、地面の蓋をどけるだけで、誰でも中に入れた。

管路には微量の水が流れているだけ……。

雨水?

地下水?

私は、そこに尻と足が浸かっている状態だ。

要するに、ここは、使われていない下水道管路ということだ。

まぁ、日本中探せば、そんな場所はいくらでもある。


ここには私しかいない。

虫や小動物はいるみたいだけど……。

私は、さっき降りてきた梯子の前に座っている。

上の蓋は開けっ放しにしておいたので、そこから星空が見えた。

ここは山や海で遭難するよりも気づかれないかもしれないね。

何が起きても、誰かがここに救助に来ることは絶対にない。

叫んではみたものの、地上にその声が響いているとは思えない。


あの星空を眺めながら……、完全敗北を喫した人生について考える。

家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで終わった1回きりの人生……、それは何を意味するのか?

会話の相手とメールの相手がいなかった。

デート経験とセックス経験も無い。

どんなに望んで、どんなに求めて、どんな行動を起こしても、誰とも出会えなかった。

なんの手段も無かった。

この苦しみは、私と同じ能力に生まれ、同じ環境で育ち、手段を使い果たしたものにしかわからない。


日本人は、恵まれた環境でヌクヌクと生きてきた被害妄想者と、不幸の背比べをして意地でも勝とうとしたがるクソガキしかいない。

私の言葉は、すぐに弱音と捉えられ、「ああすればいいだろ」「こうすればできるだろ」と必ず言ってくる。

勝手に、努力不足・我慢不足・行動不足のレッテルを貼ってくる。

私はこいつらと違って、当たり前のように家族がいて、当たり前のように住む家があって、当たり前のように友人がいて、当たり前のように恋愛ができて、当たり前のように結婚できて、当たり前のように子供がいる、または、そのどれか一つでも叶えられている人生ではない。

こいつらにはできるかもしれないが、私にはできない。

こういう人生の連中は、当たり前を当たり前だと思って生きているから、死ぬまで本質に気づくことはない。

たとえ、家族がいなくても、住む家がなくても、友人がいなくても、恋人がいなくても、今の自分でいられると信じ込んでいる。

だから、そういうセリフが頭ごなしに飛び出すのだろう。

まぁ、私から見たらただのクソガキでしかない。

ただ、そのクソガキが人口の99パーセントを覆ってしまったら、その主張が正義となる。

こいつらが自分の力で勝ち取ったと勘違いしているものは、全て、生まれた瞬間にそこにあったもの……、初めからそこにあったものだ。

自分で勝ち取ったものなど、何も無い。

私と同じ才能と環境で生まれ育ったら、今のお前など、一欠けらも存在していない!

残り1パーセントの存在がそれを言っても意味はないけどね。


下水道管路の中は小さな物音でもよく響く。

狭い暗闇は恐怖を駆り立てる。

懐中電灯アプリをオフにすると、本当に何も見えない。

ただ、考えをめぐらすことしかできない。


これほどまでに醜い存在……。

私はいったい何のために生まれてきたのか?何のために生きたのか?

生涯、誰とも繋がれなかった私の死には、どんな意味があるのだろう?


ここから星空を眺めていると、みんなのいる世界というのは、果てしなく遠いな……と、強く感じる。

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