踏切で向かい合う(パラレル編)

私は、急行電車の先頭車両にいた。

いたと言っても、実際にいるわけではない。

パソコンの画面から見ているだけだ。

鉄道YouTuberの、ある動画をね。

運転手の斜め後ろに立って、前面展望をしている。

まもなく、あの踏切を通り過ぎる。

私が小学生時代、中学生時代、高校生時代と、12年間渡り続けたあの踏切を……。


なぜ、こんな動画を見ているのか?

自分でもよくわからない。

故郷とか望郷なんて言葉は、私には存在しないのに……。


あの踏切が見えた。

これほどの月日が流れたのに、あまり変わっていないように思えた。

一瞬で通過した。

刹那はセピア色を映しだし、私の脳に淡い喪失を放り込む。

遮断機の前で立っていたのは、小学生の頃の私……、中学生の頃の私……、高校生の頃の私……。

周りには、昭和末期から平成初期の景色があった。

そこには色があり、匂いもあった。

あのときと同じように、制服姿の、恋する人たちがいた。

笑顔が弾けていた。

遥か離れた場所から見ているのに、まるで、そこに居るかのようだ。

すぐに嫌悪感でいっぱいになった。

なんと言ったらいいのだろう。

パラレルの境界線が破壊されたかのように、それぞれの時代におけるツラい場面が、瞬時に、私の脳になだれ込んできた。

私は、たまらず、パソコンをシャットダウンした。

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