ド・レ・ミの歌
『ド・レ・ミの歌』を聞くと、あのときを思い出す。
「ここ、精神病院ですよ」
嫌悪感たっぷりの、受付嬢の電話対応だった。
あまりにもヒドすぎた。
私は裁判長に命じられて電話しているだけなのに……。
結局、その数年後に、そこの病棟に閉じ込められている。
だったら、最初から丁寧に扱ってくれよ、クズ女さん。
まぁ、そういう対応をするということは……、普段から、障害者として扱ってほしい被害妄想クズ人間、または、承認欲求に飢えた被害妄想クズ人間から、「通院させてくれ」「入院させてくれ」と、山のように電話がかかってきているのだろう。
『ド・レ・ミの歌』とは、世に知られているサウンド・オブ・ミュージックのあの歌だ。
いろんな替え歌があった。
小学生時代に歌ったと思う。
私が思い出すのは子供の頃の事ではなく、若い時間が終わった時期のこと……。
あの鉄格子で覆われた窓の前で、それを歌った。
発狂するくらい大きな声で歌った。
そのとき、曲も流れていたような気がする。
私が精神病院にいたという書面以外の唯一の証拠が、その記憶だ。
手がかりはそれしかない。
そのとき、どんな自分だったのだろうか……。
興味はあるけど、今となっては、もうどうでもいい。
人生を最初からやり直すことはできない。
今、振り返ると……、あのまま……、狂人のまま……、自分が誰かもわからず死んでいた方が幸せだったかもしれない。
『家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで終わった1回きりの人生』という現実を知らずに済んだ。
このまま生きたら、いずれ、自殺か殺人かの選択を迫られる。
ただ、私が弱いからではない。
人間に生まれ、私と同じ道を進んだのなら、必ずそうなる。
それについては確信がある。
私は好きでこんな人生を送ったわけではないし、好きであそこに居たわけではない。
日本人は、自分さえ良ければ他人がどうなろうが知ったこっちゃない民族だ。
おまけに、恵まれた環境でヌクヌクと生きてきた被害妄想者と、不幸の背比べをして意地でも勝とうとしたがるクソガキしかいない。
だから、この国に住む人たちは、そんな私を羨ましいと思うようだ。
なぜなら、私は、そいつらが喉から手が出るほど欲しい『(元)重度の精神障害者』という称号を持っているからね。
今は、軽度に変わっているけど……。
どうだ?
その称号、ほしいか?
「仕事や私生活が上手くいかないのは障害のせい」と予防線を張れるぞ。
残念ながら、予防線を張ったところで、この国の人間は誰も相手にしないけど……。
それは、それをほしいと望む被害妄想者どもが一番よくわかっているはずだ。
私にとって、その称号は何の価値もない。
欲しいなら、くれてやる。
お前たちも、私と同じように『ド・レ・ミの歌』をあの施設で歌ってこい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。