無人駅

無人駅という言葉は、今と昔とでは、そのイメージが違う。

当時は、田舎を走るローカル線の駅というのがそのイメージだったけど……、今は、技術革新が進み、ICカード乗車券の普及とともに、都市部の無人駅も珍しくなくなった。


今、私が立っているのは、昔ながらのローカル線の無人駅だ。

そもそも最寄りの駅がココなんだよね。

田舎暮らしをすればわかると思うけど、駅なんて、存在すら認知していないことが多い。

完全に車社会で、たまにバスを利用するくらいかな?


錆びついた物置小屋みたいな駅舎に、砂利と土のホーム、それに、単線の線路と……、まぁ、見事なまでに、全部そろっているね。

旅行先なら情緒もあったけど、最寄りの駅だと何も感じないね。

正直、この駅は一度も使ったことがないし、ここに来たことすらなかった……。

多分、この近くに住んでいる人も、この駅は使っていないと思う。

故郷の風景とは随分と違う。

駅前は、見渡す限りの森しかない。

周辺には、昭和の住宅地があって、その中に新築の家が数軒混じっていると言った感じだ。

一言で言えば、寂びれている。


今日は、台風が過ぎ去った次の日なので、少しだけ強めの風が吹いている。

もちろん、このホームには私しかいないし、自然の音以外、何も聞こえない。

呆然と立ち尽くしている感じだ。


駅は、線路が果てしなく続いているところに味わいがある。

それをどう捉えるかは、その人の人生次第だ。

私は、家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えてしまった。

すでに、生きる意味・気力・目的・希望は無い。

線路をたどれば、東京、大阪、名古屋とも繋がる。

どの街にも、私がいた過去がある。

今、ここに居るということは、終点が近いということか……。

当時の光景を思い出す。

あのときも、私の周りには誰もいなかった。

『若い』というのが、唯一の取り柄であり、希望だった。

線路が、人生の軌跡のように見える。

まるで、逃亡犯のように、この線路をたどって、ここまで逃げてきたという感じだ。


強風で、線路に砂が舞っている。

何かのメッセージのようにも思える……。

短い1回きりの人生……、そのほとんどが終わってしまった。

何もできずに、誰の記憶にも残らずにね。


しばらくここに居ようか……、どうせ誰も来ないし……。

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