他人の本音を知る機会(捜査員の人物調査には応じない方がいいよ)
他人の本音は、心を読めない限りわからない。
人間関係が必然とされる場所では、必ず本音と建前が存在する。
これは世界規模で見たら、地域や国によってその在り方は大きく違う。
日本人はアルカイックスマイルに例えられるように、本音を顔に出さず、曖昧な笑みを浮かべてその場をやり過ごすことが多い。
本音と建前を足して2で割ったような感じにね。
日本人は外国人よりも本音に迫るのは難しいだろう。
だが……、それが可能な事案が1つだけある。
警察による捜査だよ。
私は、人生が崩壊して逮捕されるようになる前は、普通に働いていた。
会社勤めの頃は、大勢の部下がいた時期もあった。
まぁ、小売業なのでガチガチの上下関係ではなく、チームみたいな感じだったけど……。
本音の部分は、上司の立場になってしまうと、もうわからない。
ただ、変なことを言われたり、あからさまに嫌な態度をとられたことはなかったし、それどころか異動が決まったとき、バイト君たちが中心になってお別れ会まで開催してもらっているので、私の感覚では上手くできていたのではないかと思っていた。
本音がわかったのは、逮捕されたあとの警察官とのやりとりからだ。
私は、家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えている。
その絶望から、生きる意味・気力・目的・希望も無くなってしまった。
自殺をするか、殺人をするかの二者択一になってしまった。
当然、私生活での人間関係など存在せず、通話履歴もなければ、メールの履歴もない。
携帯電話の電話帳には誰も登録されていない。
私を知る人物なんて職場関係以外には存在しない。
事件の捜査という名目で、警察官がかつての私の部下にした質問は……。
あいつは、いったいどんな人間だったのか?
私の人物像を探りにいったみたいだが……、その質問の答えを、私は取調室で聞かされた。
誰が何を言ったのかも含めてね。
まあ、見るも無残な罵詈雑言の嵐だった……。
ショックだったよ。
このとき初めて、他人の本音がわかったよ。
警察官を見ると安心感からか、ベラベラと話してしまうのは、いかにも恵まれた環境でヌクヌクと生きてきた日本人らしいなぁと思ったけど……、その、お前が話した内容を、そのまま取調室で私に伝えられているとも知らずにね……。
死刑判決が濃厚な事件なら、別に何を話しても自分に危害が及ぶことはないだろうけど、それ以外はやめた方がいいよ、本音を話すのはね。
すぐに出てくるから。
そして、復讐されるから……。
日本の司法制度は、ぬるま湯以下だということを知っていなければならない。
出所したあと、さりげなく店まで会いに行ってやった。
店の連中は、完全にドン引きだったね。
そりゃ死刑じゃないんだから、再び、お前らの目の前に現れるよ。
しかも、おびき寄せたのはお前らの方だ。
反面、それが私の本当の評価であり、社会的価値というのは認めなければならない。
ダービー兄弟の弟や界王神みたいに、漫画の世界では心を読める奴はいるけど、現実にはいないからね。
ふとした拍子に、本音がわかって良かったよ。
ああ、そうそう……、逮捕とは縁のない恵まれた環境でヌクヌクと生きてきた大半の日本人に言いたいけど……、逮捕は死刑じゃないんだよ、あと、警察官性善説も捨てた方がいい……、人生が壊れたあとの人間というのは、お前らが知っている人間ではなくなっているからね。
喧嘩を売るときは、自分よりも良い人生を送っている奴にしか売ってはダメだよ。
日本人は日本人らしく本音は言わない方がいい。
相手の人生に引きずり込まれるだけだよ。
それに、私の壊れ方次第では、何のためらいも無く、殺しに行ったかもしれないしね。
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