森の中には魔女がいる
この森を抜けると魔女の館があると聞いた。
残念ながら……、その魔女の館とやらを見たものはいない。
小学生のとき、探検ごっこと称して、森の中へ踏み入ったことは何度もある。
かなり深い森の中に入ったこともあった。
道なんて無いのに、突然、木々や草に覆われた古びた公衆トイレが現れたり、建物らしきものが現れたりと、それなりに神秘体験はしたと思う。
幼い頃と現在とでは、住んでいる場所が違うのに、なぜか、いずれも巨大な森がすぐ近くにある。
私が森の中に入ったのは、小学生以降では、ここ10年間で数回あるくらいかな?
『解離』の診断を受けたとき、名前や住所、勤務先、暗証番号は全て飛んでしまった。
そのとき、気が付いたら森の中……、ということが何度かあった。
『解離』の症状は、かなり回復して、今ではそういうことは少なくなったが、残念ながら自殺願望に襲われたとき、自らの意思で森の中に入ることがある。
別に、そこで死のうというわけではない。
ただ、何となく……、そこに誘われて入ってしまう。
無意識のうちに、在りもしない魔女の館を探しに行ってしまう。
実際に魔女の館があって、そこに魔女がいたら、私は何を願うのだろう?
「もう一度、今の記憶を維持したまま、生まれたときからやり直したい」と、誰もが言いそうなことを言うのだろうか?
私は、何もできずに1回きりの人生を終えた。
これがどれほどの無念と絶望かなんて、実際に味わったものにしかわからない。
日本人は自分さえ良ければ他人がどうなろうが知ったこっちゃない民族だ。
おまけに、恵まれた環境でヌクヌクと生きてきた被害妄想者と、不幸の背比べをして意地でも勝とうとしたがるクソガキしかいない。
無念と絶望を口にしたところで、「私だって……」と言われて、不幸の背比べが始まって喧嘩になるだけだ。
誰も他人の人生には興味が無い。
結局、人が当てにならないから、神秘的なものに私自身を委ねてしまうのだろう。
随分と歩いた。
真夜中に森の中をさまようなんて、なかなか、できることではない。
ただ、自殺願望が強いときは、もう、怖いものなど何も無い。
何でもアリだ。
本当に見つけたくなってきたよ、魔女の館を……。
生涯、この世で独り……、そんな人生しか送れなかった。
私には、もう、何もないんだ……、この世界で生きていく術がね。
魔女よ、この先のどこかに居るのなら、私と会ってくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。