幻覚

小学生の頃の私が見える。

1人で道路を歩いている……。


今や、動画サイトでは、日本中の街や風景が、ほぼ全て網羅されている気がする。

その街の名前で検索するだけで、動画が出てくる。

当時、住んでいた街の風景はどうなっているのだろう?

街と地名を入力して、検索してみた。


都市部に住んでいたので、たくさんの動画がヒットした。

チラッと見たけど、正直、全くわからないほど、町の風景は変わっていた。

さすがに30年以上も経過していたら、そうなって当然なんだろうけど……。

どれもこれも、現在の風景なので、私には何の感慨も無い。


しばらく見ていると、その中に1つだけ、ひときわ興味をそそられる動画があった。

それは、1980年代前半に撮られた映像だった。

ん?

あの時代は……、確か……、スマホ・携帯電話どころかポケットベルも無かったはず……。

まだ、CDすら無かったと記憶している。

そんな時代に、こんな動画を撮る機械なんて、あっただろうか……。

昔のフィルム映像を動画ファイル化したのなら、こんな綺麗な映像にはならないと思うけど……。

どこの誰が撮ったのだろう?

多分、近くに住んでいた人だろう。


動画は、私の家から2番目に近い駅からスタートしていて、駅裏から川沿いの道路を進んでいる。

小学生のときの通学路が、当時の風景で、そのまま映っていた。

こんな映像があるとは……。

驚いたよ。


あのとき、逃げ場の無い絶望の中で、唯一の安らぎが、登下校時の歩いている時間だった。

いつも、考え事をしながら歩いていた。

空想の世界では、いつも私は主人公だった。

動画には映ってないけど、私には見えるんだ。

小学生の後ろ姿が……。

毎日、家で虐待されて、学校では、いじめられていた小学生の後ろ姿が……。


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