錆びついた三輪車
その日は、小雨が降っていた。
この辺りの風景は、一面に広がる田園の中に、瓦屋根の家が点在していた。
仕事で、ある一軒のお宅を訪れたときのこと……。
用件を済ませて、玄関をあとにした。
道路に駐車した営業車に戻ろうとしたときだった。
その一歩手前……、隣接する物置の前に、それはあった。
錆びついた三輪車だ。
思わず、足が止まった。
私は、その三輪車をジッと見つめた。
記憶に残っている映像の中で、最も古いものが再生される。
3歳の頃の私が、楽しそうに三輪車を乗り回している映像だ。
昭和40年代・50年代製造の三輪車なんて、現存していたらこんな風に朽ち果てているのだろう。
雨粒が三輪車を直撃するたびに、そのリズムに合わせて、幼かった私の笑い声が聞こえてくる。
離散した家族も、きっと、その笑顔の近くにいたはずだ。
私は、笑った時間が少ない。
小学5年生と6年生のときと、あとは、ところどころで覚えているくらい。
短い陽だまりの時間が、突然、映像化されるのだから、たまったもんじゃない。
切なくてたまらない。
思わず涙目になる。
人生の儚さに思いを寄せる。
ちょっとだけ胸を締めつけられたので、ゆっくりと深呼吸してみる。
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