ハレー彗星のように

まるで、ハレー彗星のように、勢いよく離れていく。

前回、ハレー彗星が地球に接近したのは1986年、次に戻ってくるのが2061年だから、今頃は太陽系の端の方か?

そもそもハレー彗星なんて死語を口にする時点で年代がバレる……。

あのときは小学生……、正直、ハレー彗星なんかどうでも良かったけど、何となく世間が騒いでいたのは覚えている。

しかも、かなり大がかりに騒いでいた気がする。

私は、家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えた。

この世に会話の相手とメールの相手が1人もいなかった。

終わってみれば、私の人生は、あのハレー彗星のように、あの時代から独りで宇宙に飛び出していった感じ……。

1986年、いじめと虐待でガリガリに痩せ細っていた私にとって、クラス替えしたあとのクラスメートという存在は、あとから振り返ると、刑務所暮らしに匹敵する居心地の良さだったかもしれない。

この30年間、仕事と拘禁施設以外で誰かと過ごしたり会話したりした時間の合計、全部足しても24時間いかない。

この10年に至っては、それが1秒も更新されていない。

あの頃が、学校という強制施設であったにせよ、私にとっては、人と触れ合う最後の時間だったかもしれない。

シャバの世界で味わう孤独と絶望は想像を絶する深さで、刑務所という疑似家族の味を1度知ってしまうと、みんな、あそこに戻りたがる。

私と同じ天涯孤独の元受刑者なら、きっと同じ想いだろう。

そうやって軽犯罪を繰り返している奴を、向こうでいっぱい見てきたからね。

ハレー彗星も、あの時代を出発して戻ってくるのだから、似たような感覚になるね。

2061年……、可能性はゼロではないが、生活破綻を繰り返した私が、そこまで長生きしているとは思えない。

もし、もう一度、会えるのなら……。

『私もお前と同じように、あの時代を出発して、誰もいない宇宙を独りで進んだだけの人生だった』と……、そう思えるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る