取調室(取調室には何か異様な魔力がある)

人はなぜ、やってもいない罪を認めて自供してしまうのか?

そんな疑問を持った国民はたくさんいるだろう。

ただ、これに関しては……、私のように容疑者という立場を経験したものにしかわからない。

取調室には、何か異様な魔力がある。

毎日毎日、朝から晩まで、取調室に缶詰めにされると、なぜか、異様な疲労に襲われる。

これが身体的にも精神的にも、とても辛い。

ただ、経験したことが無い人には、何が辛いのか、さっぱりわからないと思う。


私は、家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしの1回きりの人生を終えている。

生涯、この世に、会話の相手とメールの相手がいない。

私を落とすエサなんか何一つ無かったにもかかわらず、それでも辛かった。

まぁ、私の場合は、やってもいない罪を認めるではなく、その逆だったから例えにはなっていないのかもしれないけど……。


これは、それまでの人生経験が極めて大きく影響する。

世間一般からすると、私のような存在はただのクズに映るかもしれないけど、私が負けを認めることは無い。

それを認めたら存在が崩壊するからね。

そういう運命のもとに生まれて、そういう人生しか送れなかったのだから、私のせいではない!と自分に言い聞かせて独りで生きてきたのだから、認めるわけがない。

それでも「黙秘します」は、最初だけで、続かなかった。

「何が黙秘しますじゃボケ!アホ!死ね!」と間髪入れずに脅してきた取調べの警察官とは、怒鳴り合いの喧嘩になったから……。


供述調書は、警察官が自分で作ったシナリオ通りに、目の前でワープロで打つ。

それをプリントアウトして、私に読み聞かせる。

最後は、それに指印を求めてくる。

私は、そんな供述調書を笑顔でビリビリに破り捨て、花吹雪のように取調室に撒き散らした。

「何やってんだ!てめぇ」

キレられた。

正直、こういうタイプは私の敵ではない。

脅しに屈するほど、ヤワな人生は送っていない。


私は独りで生きた人生なので、もう、ここに居る時点で、自殺願望と殺人願望しか残っていない。

情や正義など、存在しているわけがない。

私は何をやっても落ちないので、担当が、年配の警察官へと変更された。

法律では最長で20日間の勾留となっているが、起訴された後も容赦なく取調べは続くので、実際には裁判終結の日まで続く。

1年だろうが、2年だろうがね。


私の経験では、長期間勾留されると、普通に生きてきた人なら、ほぼ全員が落ちると思う。

たとえ無実であってもね。

威勢がいいのは最初だけで、続かないと思う。

その人の性格も大きく影響すると思う。

独りで生きた私ですら辛いのだから、他の人は、ほぼ無理だろう。

年配の警察官は、あの手この手で落としにくるが、私は落ちなかった。

どれだけ過去をさかのぼっても、私が心を開いた人はいないし、私に心を開いた人もいない。

結局、そのときは、4つもかけられていた容疑が1つに減り、警察官が「そんな生き方してたらダメやろ」と負け惜しみを言って終わった。

通算だと年単位になる取調室との関わりだが、私がどんなに強がったところで、私が負け犬であることに変わりはないので、結局、いつも虚しさだけが残る。

私も、この部屋で繰り広げられた人間模様の一人として、そういう事実があったことをここに記しておこう。

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