取調室には何か異様な魔力がある (受刑者回顧録2)
人はなぜ、やってもいない罪を認めて自供してしまうのか?
そんな疑問を持った国民はたくさんいるだろう。
ただ、これに関しては私のように容疑者という立場を経験しないとわからない。
取調室には何か異様な魔力がある。
毎日毎日、朝から晩まで取調室に缶詰めにされると、なぜか異様な疲労に襲われる。
これが身体的にも精神的にも辛い。
ただ、経験したことが無い人には何が辛いのかさっぱりわからないと思う。
私は家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしの一回きりの人生を終えている。
生涯、この世に会話の相手とメールの相手がいない。
私を落とすエサなんか何一つ無かったにもかかわらず、それでも辛かった。
まぁ、私の場合はやってもいない罪を認めるではなく、その逆だったから例えにはなっていないのかもしれないけど……。
自供するかしないかは、その人の性格とそれまでの人生経験が大きく影響する。
世間一般からすると、逮捕された私のような存在はただのクズに映るかもしれないけど、私が自供することはない。
それは人生における負けを認めることだからね。
不可抗力で落ちぶれてしまった人生を「自分のせいです」と言い換える作業、つまり美徳に酔って嘘をつく作業に過ぎないからね。
そういう運命のもとに生まれてそういう人生しか送れなかったのは私のせいではない!
自供するということはそれを私のせいだと認めるということだ。
それはね、人間である以上、無理なんだよ。
誰にも伝わらないと思うけど……。
それでも「黙秘します」は最初だけで続かなかった。
「何が黙秘しますじゃボケ!アホ!死ね!」と間髪入れずに脅してきた取調べの警察官とは怒鳴り合いの喧嘩になったね。
供述調書は警察官が自分で作ったシナリオ通りに目の前でワープロで打つ。
それをプリントアウトして私に読み聞かせる。
最後はそれに指印を求めてくる。
私はそんな供述調書を笑顔でビリビリに破り捨て、花吹雪のように取調室に撒き散らした。
「何やってんだ!てめぇ」
キレられた。
正直、こういうタイプは私の敵ではない。
私は脅しに屈するほどヤワな人生は送っていない。
独りで生きた人生なので、もうここにいる時点で自殺願望と殺人願望しか残っていない。
情や正義など存在しているわけがない。
私は何をやっても落ちないので担当が年配の警察官へと変更された。
法律では最長で20日間の勾留となっているが、起訴された後も容赦なく取調べは続くので実際には裁判終結の日まで続く。
1年だろうが2年だろうがね。
私の経験では長期間勾留されると、普通に生きてきた人ならほぼ全員が落ちると思っている。
たとえ無実の罪であってもね。
威勢がいいのは最初だけで続かないと思う。
独りで生きた私ですら辛いのだから、他の人はほぼ無理だろう。
年配の警察官はあの手この手で落としにくるが私は落ちなかった。
どれだけ過去をさかのぼっても、私が心を開いた人はいないし私に心を開いた人もいない。
結局、そのときは4つもかけられていた容疑が1つに減り、警察官が「そんな生き方してたらダメやろ」と負け惜しみを言って終わった。
通算だと年単位になる取調室との関わりだが、私がどんなに強がったところで私が負け犬であることに変わりはないので、結局、いつも虚しさだけが残る。
私もこの部屋で繰り広げられた人間模様の一人として、そういう事実があったことをここに記しておこう。
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