デイジー(出会い系サイトで知り合った人妻とのわずかな恋の時間……)

偶然、それを見つけた。

今、中心市街地に居る。

たった1人で、ここまで歩いてきた。

ここは、幹線道路から外れた裏通りだ。

幹線道路沿いは、ビル・商業施設が建ち並んでいるが、裏通りは、まるで趣が違う。

こちらは、車一台走っておらず、道幅も車一台分しかない。

ただ、両サイドに、その倍以上の幅がある歩道があった。

そこには、等間隔で街路樹が植えられていた。

道路の真ん中を歩けば、まるで、緑のトンネルをくぐるかのようだった。

街路樹の根元には、それぞれ数平方メートルもある植木鉢が置いてあった。

その中は、一面に綺麗な花が咲いていた。

デイジーだ。

ああ……。

記憶から抜け落ちていた恋の場面が、一瞬で、なだれ込んできた。

そうだ……、異性と一緒に見た最後の映画が『デイジー』というタイトルだった。

徐々に、そのときのことが鮮明になってくる。

2006年公開の、韓国映画のエンディングが、目の前の光景と重なった。

何か、突然、トドメを刺された気分になった。

こんなことなら、部屋の中で無駄な時間を過ごしていた方が良かったかも……。

「前評判、低かったわりには、良い映画だったね……」

そんな会話を交わしたことまで思い出した。

初恋(片想いも含む)は、若い時間を生きていたら、誰にでも勝手に降ってくるもの……。

でも、最後の恋は、あれが人生最後の恋だったのか、と恋愛ができない年齢になったあとに気づくもの……。

この30年間、仕事と拘禁施設以外で誰かと過ごしたり会話したりした時間の合計、全部足しても24時間いかない。

つまり、私は、生涯で、異性と2人で過ごした時間が24時間もない。

あの出来事は、その、わずかな時間の中の1コマでしかない。

あのときに戻れたらと……。

ふと、思った。

私は、この場所を逃げるように離れることで、そのときのことを、再び、記憶の底に沈めようとした。

ああ……。

私は、野に咲くデイジーを見るたびに、それを思い出さなければならないのだろうか……。

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