任意同行(逮捕前の任意同行に応じたときの警察官との会話)

私は、プリウスの後部座席の真ん中にいた。

両サイドには、背広姿の警察官が座っている。

高速道路を走っている。

景色は、目まぐるしく過ぎていく。

逮捕前の任意同行に応じた。

抵抗はしない。

このあと何が起きて、どんな事をされて、どういう所に連れて行かれるかは、全てわかっている。

もう、慣れてしまった。

人間、慣れるとダメだな……。

ただ、パトカーには乗ったことがない。

パトカーに乗るには、現行犯か、世間を騒がせるくらいの重犯罪をしないと無理な気がする。

「逮捕は初めてか?」

背広の警察官が言った。

「初めてに見える?」

「ハハハ。まあ、長い付き合いになりそうだな」

「ならないと思うよ」

「なんでや?」

「自供頼みだから任同なんでしょ?20日で自供を引き出すのは無理だと思うよ。裁判終わるまで缶詰にしても、多分、無理だと思う。見た目と違ってタフだから」

「ほう、そうか」

「取調室でタバコ吸うのはダメなんだよね?」

「今はもうダメや。昔は良かったんだけどな。朝の運動のときに2本だけや」

「シャバより、あっちの方が健康だし、精神も元に戻るし。いいことしかない。そういう孤独なおっさん、いっぱいいるでしょ?」

「何言ってんだ、お前。まだ若いやろが」

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