平均台

朝まで降り続いた雪も、今は止んでいる。

50㎝は積もっただろうか……。

ここは、一車線しかない舗装道路だ。

道は、もう、道じゃなくなっている。

辺りは田畑が広がっているので、この状況では、どこまでが道幅なのか、わからない。

ここを歩くのは至難の業だが、進むしかない。

さすがに通れないな……、と躊躇していたら、後ろから来たトラックが強行突破していった。

まるで除雪車のように、雪をかき分けて轍を作っていった。

このトラック……、どこかで身動きが取れなくなるだろうな……、と思っていたけど……、埋もれることもなく、かなり先の幹線道路へと消えて行った。

タイヤの道ができた。

足1つ分の轍の上なら歩けそうだ。

私は、轍の上にソッと足を置いてみる。

そのまま進む。

まるで、平均台の上を歩いているかのよう……。

真っ白、大雪、冷たい風、狭い一本道、タイヤの跡、シャーベットを踏みしめる音……。

どことなく私の人生観に似ているけど……。

ただ、私の人生には誰かが作った道しるべは無い。

まぁ、あったとしても、その道は選べないし……。

家族主義国家日本で天涯孤独になるという現実が、どれほど過酷かなんて……、私の人生経験ではそれを知る人間は誰もいないと言っていい。

牢屋暮らしと路上生活を行ったり来たりした経験がないと何もわからないし、本当に独りになったら、必ず、そういう運命をたどるという確信がある。

無いのなら、この国のほぼ全てを占める、不幸の背比べをして意地でも勝とうとしたがる被害妄想者でしかない。

ある瞬間……、ちょっとだけバランスを崩してしまった。

転倒寸前、新雪に手をついた。

手袋をしていなかったため、一瞬で、痛いほどに手が凍った。

一生懸命、息で手を温める。

でも、冷たすぎて、全然、温かくならない。

すでに終わりを遂げた私の人生を投影しているかのようだ。

再び、歩き出す。

平均台の上を断念して、私は自分の人生経験と同じ、道なき道に足跡を付ける歩き方に切り替えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る