第23話 諸葛孔明、天下を三分す
「こ、孔明さん……!」
「事情はうかがっておりました。
「どういうことっすか? ……えっ、もしかして三角関係!?」
彩香がサツキくんにモーションかけているのは前々からわかる。
まさか麻理恵ちゃんまでなのかと、ここに来てようやくアン子は悟った。
成績もよくて隠れ巨乳という武器を持つ彼女の参戦したら、勝ち目がない。
男子を好きになるとかいう感覚は、今までなかったのだ。
漫画とかの絵空事で、なんとなく憧れがある程度である。
口を開けて待っていれば、いつかそのうち来ると思っていたので、何の準備もしていない。
自分を
なのに、三角関係……いや、三人の女子で男子を巡るから正確には四角関係という混迷の時代がやってきたのだ。
「そこは深く言いませぬ。しかし、天下三分の計の要点は、二国が争い牽制しているうちに、一国が力を得て天の時勢を待つことにあります」
「そうなんだ、三分割して仲良しってわけじゃなかったんですね」
「借りた漫画の二一巻以降をお読みになれば、わかるかと」
「まだ一〇巻まで読んだだけなんですが……」
全六〇巻というから、道は先は長い。
「アン子様、ずばり言いますがあなたはまだ色恋の準備ができておりません」
「うぐっ!?」
「よって、二国が牽制している間に自分を磨くのです」
「自分磨きですか? おしゃれとかダイエットとか……ほ、豊胸とかですか!」
スマホの孔明が、頭を抱えたように見えた。
ここで豊胸という発想に呆れてしまう。
「安易な発想は捨てなさい。仮に胸を大きくしたとして、アン子様自身にこれなら勝てるという自信がございますか?」
「な、ないです……」
麻理恵ちゃんのずっしりくる胸の重みを思い出し、しゅんとなった。
勝てない、あれには勝てない。
だったら、何を磨けはいいのか?
「TRPGの技量を磨くのです」
「ああ、それならまだ自信があります!」
孔明のアシストがあったおかげで、アン子のKPは成功した。
おかげで、TRPGには多少の自信がついたのだ。
「ならはサツキくん、彩香様、麻理恵様の三人を誘って持ち回りのセッションを提案なさいませ。最後は、アン子様が『アリアンロッド』でGMをすると」
「持ち回りセッションですか?」
「今からお互いに一回ずつセッションをすれば、アン子様が一回有利になります」
「なるほど! ……でも、あたしの番が最後でいいんですか」
「週一回の持ち回りであれば、その間アン子様は一月の猶予を得ます。この時を得て、GMの腕前を修練いたしましょう」
「そっかぁっ!」
さすがは伝説の軍師、アン子は感心することしきりである。
猶予期間一ヶ月、その間にサツキくんが喜んでもらえるGMができるようになれば武器も属性もないアン子にも勝算はあるのだ。
「ですが、油断はなりません。どちらにも軍師がいるはず」
「彩香と麻理恵ちゃんに、孔明さんみたいな軍師が?」
だとしたら、脅威でしかない。
アン子はスマホでたまたま軍師・諸葛亮孔明を引いたのだから、ふたりも何かの拍子で軍師を引くこともあるだろう、その辺は納得した。
「でも、孔明さんって三国志一の軍師じゃないですか。だから勝てますよ」
「私の才では、最後まで魏に勝つことはできかったのです。蜀漢を滅ぼした
「孔明さん……」
蜀は滅んだのだ、孔明は五度の北伐を行なっても魏には勝てなかった。
しかし、いずれも目的は達成できずに終わった。いたずらに蜀の国力を
「大丈夫だよ、孔明さん! 今度は勝てばいいじゃん」
「アン子様……」
「あたしが孔明さんのサポートでサツキくんとラブラブになれば、前世のリベンジじゃないっすか!」
「目の覚める思い出ございます」
孔明の瞳に、知性と意志の力が宿る。
持続する意志は、リーダーの条件のひとつである。
孔明から策を授かり、アン子は教室に戻る。
さっそく、その間に持ち回りGMを提案した。
「……持ち回りね。わかったわ、最初はわたしでいいわね」
「じゃあ、私は二番手として『シャドウラン』をやるね」
「俺も、GMしたほうがいいかな? みんながやるなら」
「ほんと? うわ、楽しみ!」
「あんまりうまくないよ。サークルの先輩たちのほうがうまいし」
「サツキくん、文芸部で小説だって書いてるでしょ? シナリオやGMするのだってうまいんじゃないの?」
「小説とTRPGはやっぱり違うし……」
はにかむサツキくんは、やはりいい。
そしてサツキくんのマスタリング、これにはアン子も胸がときめく。
いったい、どんなGMをするんだろうか?
彩香と麻理恵ちゃんもも気になるようである。
しかし、教室で男子ひとりを囲んで女子三人が盛り上がっているというのは、やはり目立つ。
冷やかされないように、席に戻る。
ちょっと他の女子からの視線も感じるのだ。
部活の時間に後輩が覗きに来るくらいのイケメンなので、クラス内でももともと注目度は高い。
そんなサツキくんだが、目を移すと窓に目を送って外に見える空を眺めている。
眼鏡の下の視線が、なんだか鋭い。あんな目もするするんだと、ドキッとした。
アン子もその視線の先を想わず追う。
「……なにあれ、鳥? 違う、虫の群れ?」
ばああっと、青い空に無数の黒い点が過ぎっていった。
何やら、不吉な気配を感じるアン子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます