第15話 諸葛孔明、実施教育
「えっと……」
簡雍、馬忠をプレイヤーに迎え、アン子は孔明から初KPの実地教育を受ける。
おっさん三人が現役JKの部屋に押し寄せるのは、なによりスペースの問題があるのでミニサイズで実体化してもらった。
机の上に、メタルフィギュアのように並んでる。
そうなっても、いまだ簡雍は腕枕をして寝っ転がったままだ。
「して、TRPGとはいかなる遊興なのですか?」
簡雍が、その姿勢からようやく身を起こして興味深げに聞く。
ふてぶてしいおっさんも、メタルフィギュアサイズだと脅威は緩和される。
ていうかどっかかわいい。おっさんは小さくなると現役JKの部屋にもいられる。
「面白い話をしてお芝居したりしなかったり……それとサイコロを振って調べたりする遊びです!」
「ふーむ、まだよくわかりませんな-。結局芝居はするのですかしないのですか」
「こ、孔明さん……!」
遠慮のない簡雍の質問に、さっそく孔明に泣きつくアン子である。
「アン子様、これは事前の予行演習。私が彼らに説明しては意味がありません。失敗してもこのふたりなら咎めることはありませんから、どうぞ大きな気持ちでおやりなさいませ」
「とは言っても、どこから説明したもんかなって」
「そういうときこそルールブックにございます」
言われて綴じたスターター・セットの打ち出しをめくると、『What is the Call of Cthulhu? “新クトゥルフ神話TRPG”とは』という項目の一文がある。
「ここに書いてあること、説明すればいいんですか?」
「左様、声に出して読み上げてご覧なさいませ。二日後のセッションには、TRPGを初めて遊ぶという方もおいでです。その方を想定しての練習ですので、よい機会となります」
「ああ、そっかー」
急遽参戦表明した麻理恵ちゃんは、アン子と同じく花のJKであり、召喚された三国志の人物であるふたりとは似ても似つかない。しかし、TRPG初心者という点のみにおいては一緒だ。
その辺は、本番のシミュレーションとなろう。
「じゃ、説明しまーす。“新クトゥルフ神話TRPG”は、ごく普通の人々がクトゥルフ神話の恐るべき異界の力に立ち向かう――」
そのまま棒読みで文章を読み上げる。
簡雍も馬忠も、アン子の読み上げを興味深げに聞いていた。
「……ふうむ。『君子
『論語』の言葉を引き合いに出しつつ、馬忠は理解したようである。
ちなみに、立派な人はオカルトを容易に語らないという意味だ。
しかし、オカルトや超常現象というのは、やっぱり魅力的なテーマで、時代が下ると中国でも多数の伝奇小説が登場するようになる。
「とまあ、そんな感じでいいんですよね、孔明さん?」
「問題ありません。そのまま進めてよろしゅうございますよ」
「うん!」
孔明がプレイヤーのひとりとしてサポートしてくれるのは心強い。
初KPのアン子には、何が正しくて何が間違っているか判断もつかない。
ここで「それでいい」と言ってくれる孔明の存在が、どれだけありがたいか。
「それじゃあ、はじめていきたいんですけど……」
言いながら、アン子は言葉に詰まった。
いきなりキャラクター作成に移ってもいいものかどうか? なんか不安になる。
よくよく考えると、孔明はちょっとは知っているものの、このふたりのおっさんについてはよく知らない。
向こうも同じだろう。現代のJKと話題や価値観が合うかすら不明だ。
ふたりとも蜀の武将ということはわかっているが、初対面である。
どういう人かと検索してみようとしたのだが、「簡雍」は漢字変換できず、「馬忠」は何故か呉の武将が引っかかってしまった。
「アン子様、まずは自己紹介をするとよろしいでしょう」
「あっ、そっか! ……えー、劉アン子です! KPっていうのをやります。十七歳、高校生です」
「簡雍にござる。こうして楽にしておりますので、アン子様も固くならず」
「あらためて馬忠にござる。なあに、名を残すような大した武功もござらん。そのへんの
簡雍、字は
劉備や孔明が相手でも、このようなだらしない態度を変えなかった論客である。
劉備はためらいながらも
簡雍は、劉備が益州に入った際に劉璋に気に入られ、百日も宴会をした。やがて劉備が成都を包囲するのだが、彼が降伏勧告の使者としてやってくると劉璋と世間話だけしたにも関わらず降伏を決意させ、同じ
馬忠、字を
丞相となった孔明の下に参軍し、異民族の
本人は謙遜しているが、蜀の中でもなかなかの武将である。
中国には、忠武侯の
『演義』では、何故か赤兎馬に乗って登場する南蛮の
ちなみに呉にも場中という同名の武将がいる。
関羽を捕縛し、『演義』だと
このふたりのプロフィールも、孔明がまとめてスマホに表示してくれた。
ありがたい機能である。スマホで「おっけー、孔明」で呼び出すと、いろんなことを解決してくれそうで頼もしい。
「じゃ、みなさんでPC……探索者を作っていきましょう。あたし、前に孔明さんに教えてもらったんで、ちょっと説明できます。彩香にも説明したしね」
孔明の解説がわかりやすかったのもあるが、実際に一度体験してみると人に教えるのもスムーズに行えた。経験に勝る学びはない。
なんやかんやで孔明の助言をもらいつつ、三国志の時代からダイス目で召喚された武将相手にセッションを進める。
勢いで約束してしまった当日まで、二日間しかないのである。
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