第14話 諸葛孔明、英雄ガチャ
「準備できたよ、孔明さん!」
プリントアウトしたPDFをホチキスで止め、冊子にした。
孔明の進言通り、こうすると非常に見やすいし取り回しもよい。
「よろしいでしょう。では、実地でKPを指南いたします」
「でも、プレイヤー3人いないと予行練習にならないですよ」
今、この場にいるのは孔明とアン子のふたり。
土曜日のセッションは、サツキくん、彩香、麻理恵の3人のプレイヤーを相手にKPすることになる。練習するにしてもプレイヤーが足りない。
「お任せあれ。この孔明がプレイヤーを用意いたしましょう」
「マジっすか!?」
「ルールブックには友達がついていないというのは、TRPGをやるうえで万民の悩みのようですが、この孔明には策がございます」
さすがは諸葛孔明、プレイヤーまで調達すると豪語したのだ。
赤壁の戦いで魏の水軍に藁人形を乗せた船を突っ込ませ、射掛けた矢を集めて十万本の矢を集める智謀で周瑜を感服させる逸話がある。
『三国志演義』にあるのみでこのエピソードは創作とされるが、今度はいったいどうやってプレイヤーを集めるのか?
「プレイヤーのうち、ひとりは私が務めましょう。残るふたり、これを召喚します」
「しょ、召喚……?」
「アン子様が私をダイスで召喚したように、その術式を読み解けば縁ある蜀の将星を招き寄せられるかと」
「そんなことできるんだ! すごいね、武将ガチャってことですよね!」
「左様にございます」
断言した孔明であった。
孔明は、六面体ダイスを百個振って、すべて1の目が出るという奇跡によって情報生命体として召喚された。
前述のとおり、『三国志演義』も情報生命体・諸葛孔明の構成要素である。
つまりは、呪術占術の類も使いこなす。
みずからを召喚した奇縁を解析し、ダイス目で呼び寄せようというのだ。
「ただ、ダイスを利用した召喚術ですので、誰が召喚できるかはランダムです。私にもわかりかねますが」
「ほんとにガチャなんだね。張飛とか関羽も引けるってこと?」
「目さえ揃えば。そのおふたりが果たして今回適任かどうかは置いておきます」
ちょっと言葉尻に微妙なニュアンスが残る。
孔明からすると、関羽や張飛は扱いづらい。
お互いに一目は置いているものの、あくまで劉備に仕えるという形によって統制が取れていた。
いずれも才があるだけに、両雄並び立たずというところがあるのだ。
また、TRPGを遊べそうかというと未知数である。
「召喚においては、後世に名を残す英雄ほど召喚される確率が低くなります。関羽様は現世においては神とも崇められている御仁。神を召喚するとなると、世の理に大きく逆らうことになりますから」
「つまり、
「さすがはアン子様、ご理解が早い」
「あたし、ガチャ大好きです! SSR引き当てますよ! ちょっと、蜀の武将調べてみますね」
スマホをいじって、蜀の武将について調べる。
アン子は、三国志を知らないなりにゲーム攻略サイトのステータスを参考に、よさそうな武将をピックアップしてみた。
「あっ、この
「んんん、そのふたりですか……。優秀は優秀ですが」
孔明としては、遠慮したい人材である。
ともかくプリントアウトしたPDFをホチキスで止め、冊子にした。
孔明の進言通り、こうするとパソコン画面で見るよりずっと取り回しもよい。
「では、アン子様。タップなさいませ。ダイスが振られ、英霊召喚が行なえます」
「はい! SSRが来ますように……」
祈って、アン子はダイスアプリをタップした。
百個のダイスが乱舞し、画面が明滅して部屋にまばゆい光が満ちる。
そして現れたのは――。
「――お?」「――む?」
光が消えると、床に寝そべったおっさんと、中華風の鎧をまとったでかいおっさんがアン子の部屋に突如出現した。
「うひゃあああああっ!?」
思わず叫んだアン子である。
間を置かず、ドタドタと足音が聞こえる。
「どうしたの、あんた?」
ドアを開けてやってきたのは、母である。
そりゃあ、年頃の娘の部屋から奇声が聞こえてきたら当然心配する。しかも二度目だ。
「え? ええと! ガチャがね……」
気づくと、寝そべっていたおっさんも孔明も消えていた。
気を利かせてくれたのだろうか?
「ああ、叫ぶほどいいの引いたのね。まったく人騒がせな子ねえ」
安心して母は去っていく。
武将は引けたが、急に見知らぬおっさんふたりが出てくると心臓に悪い。
しかも、机とベッドがある部屋におっさんが三人もいる狭苦しい状態だ。
「おお、軍師殿! ひさしぶりだな!」
寝そべったおっさんは、そのままの姿勢で孔明に挨拶する。
「君が来たのですか。相変わらずな態度ですねえ」
「……だ、誰?」
こういうふてぶてしい態度の蜀の武将に、アン子は心当たりがない。
関羽や張飛、趙雲あたりの
孔明とは知り合いのようで、おっさんはまだ寝そべっている。
「それがし
「えっと、こっちの鎧の人は?」
「
馬忠と名乗った鎧のおっさんは、うやうやしく礼をした。
「これはこれは。なかなかの人材が集まりましたよ、アン子様」
「そうなんですか? でも、あたし聞いたことない人たちで……」
「はっはっはっ! 我らは
「がっはっはっ! いかにもいかにも。この馬忠なんぞを英雄などと言われると面映くてかないませんぞ。
ふたりとも、悪い人たちには思えない。
むしろ、感じのいいおっさんたちである。
SSRではないが、愛されるRキャラという感じだろうか?
ともかく、これなら一緒にセッションできそうである。
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