第5話 諸葛孔明、無課金バンザイ
孔明は、ひとつのサイトを示した。
『新クトゥルフ神話TRPG クイックスタート・ルール公開!』とタイトルが銘打たれている。
「『新クトゥルフ神話』……? クトゥルフって、新と旧があるの?」
「あるようでございます。なにやら、“クトゥルフ神話”というのは、アメリカという国で生まれた神話です。このルールブックなる書も、元は外国の言葉で記されており、この倭国の言葉に翻訳されたものにございます」
「そうなんだ、外国産なんだ」
「アン子様、今スマホに入っているゲームには、『大三国志バトルⅡ』というタイトルにございますね?」
「うん、『Ⅰ』やったことないんですけどね」
「『CoC』にも同様にタイトルナンバーがあると思っていただきましょう。これまで出ていたものは、いわば『CoCⅥ』に当たります」
「へー、そんなにシリーズあったんだ」
孔明は、アン子にもわかりやすく説明しているが、TRPGのルールブックは時代とともに改訂されて新しくなるものである。
『CoC』が初めて世に出たのは、一九八一年のアメリカでのことだ。
『ルーンクエスト』というファンタジーTRPGに使われたベーシック・ロールプレイング(BRPと略す)を基本システムとして、クトゥルフ神話という怪奇小説のシェアワールドを遊ぶというコンセプトで発売された。
当時、TRPGといったらファンタジー世界で冒険してダンジョンを探索し、モンスターとバトルするというものが一般的であったのに対し、『CoC』は恐怖を体験するホラーという遊び方を示したのである。
プレイヤーキャラクターの探索者は、英雄や冒険者と言った危険を生業にする者ではなく、小説が書かれた禁酒法時代……一九二〇年代のアメリカにいる、ごくごく普通の一般人なのだ。
英雄だとホラーが成立しにくい。
クトゥルフ神話は、一般人が宇宙的な次元の怪物や邪神に翻弄され、あっという間に死んだり精神が崩壊して発狂してしまうという恐怖を体験するものだ。
TRPGが広まりつつあった日本でも評判が伝わり、一九八六年に最初の翻訳版が発売された。このバージョンは、すでにアメリカで改訂された第二版と第三版を合わせたもので、ルールブックと言いながらも箱に入っていたのだ(当時、TRPGは箱で売られる玩具流通が一般的であった)。
これも好評で、一九九三年には第五版が、一〇〇四年に第六版が発売される。
途中、D20版や出版社の変遷もあるが、ここでは割愛しよう。
現在人気となった『CoC』といったら、この第六版のことで、このルールブックを用いたリプレイ動画が爆発的な人気を得て、一時下火となっていたTRPGの人気を盛り返した大きな功績がある。
海外では、先行して第七版ルールブックがキックスターター形式で作成された。
その最新版翻訳が、二〇一九年一二月二〇月に発売されると決定する。
本国では簡単に遊ぶことができるルールとシナリオを合わせて公開されていた『新クトゥルフ神話TRPG クイックスタート・ルール』が、最新版の発売に合わせて日本語版PDFが無料公開され、ダウンロードできるようになったのである。
くわえて言うと、『CoC』は海外産だが、日本とは縁深いTRPGである。
現在『CoC』初の外国語翻訳が日本語版であり、もっとも流行してルールブックが売れている国が日本らしい。
……少々前置きが長くなったが、つまりは出版社がお試しで遊べるよう、無料版を公開してくれているのだ。ゲームでいう先行体験版だと思ってアン子は納得した。
「無料版! 太っ腹ですね!」
「簡単に遊んで体験するものなら、他のTRPGもいくつか無料で公開しているものがございます。例えば、こちらとか――」
孔明が新しいリンクを張ってくれた。
『アリアンロッドRPG 2E』公式サイトである。
「あっ、イラスト可愛くない? これ!」
『CoC』の表紙イラストは、おどろおどろしい雰囲気ものだ。
ホラーのゲームだから、こうなっているらしい。
対して『アリアンロッド』のイラストは、漫画チックでポップな雰囲気だ。
こういう感じなら、手が出しやすい。
「こちらも、一回遊んでみることができるという『スタートセット』は無料でダウンロードできるようです」
「すごいね! 無課金バンザイですよ」
「くわえて、こちらのルールブックが文庫本という書物で上下巻出ているとのことです。どちらも千円以下……二冊合わせても二千円以下でございます」
「それなら、あたしでも手が出るよ、孔明さん!」
「試しに遊んでみたのち、必要であるならばルールブックを入手すればよろいしかと。いかがでしょうか?」
「そうします、さすが伝説の軍師孔明さんですよ!」
「少々面映いですな。こちら、絵巻もついておりますね」
『アリアンロッドRPG 2E改訂版』(略称『AR2E』)スタートセットには、このゲームがどんなゲームなのかわかるオープニングコミックも載っている。
文字ばっかりだと読めないが、漫画は読みやすい。
要は、冒険者となってモンスターと戦い、技を磨いたりお金を得たりする冒険をするゲームのようだ。これはウェブのファンタジー小説っぽくて理解しやすい。
「ファンタジーなんだね、このゲーム」
「元々、TRPGの発祥は冒険ファンタジーで、そこからいろいろなジャンルのものが派生したようですな」
「なるほどー」
孔明から“ファンタジー”とか“ジャンル”とか、現代用語が飛び出すことには、もう慣れた。常時ネット接続しているだけに知識も日々アップデートされているらしい。
「あたしも、これなら安心ですよ。帰ったら、さっそくやってみます」
「では、まずは勉学に励んでくださいませ」
孔明が一礼すると、スマホの画面は切り替わった。
また何かあったら呼び出してみよう、スマホ軍師アプリとか便利すぎである。
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